死なない少女、『死』まで残りXX:XX

一於

死なない少女、『死』まで残りXX:XX

『序語』タイム・セット・オン



 おやおや。此のような時間に御遭いするとは。不幸中の不幸というものデスかね。


 イエイえ、失敬シまシた。わたクシは死神。名は遥か遠クへと置き忘れてシまいまシた。此の職に務めて早や一千と数百年になります。


 おおっと、そう慌てて逃げナイでクださい。御安心あれ、私はあナタを黄泉に送るなどといったことは一切ごザイません。今のところデスが、ね。我々死神にはのデスが、あナタは我々の執行の条件に該当シてオリませんから。これから何かをシでかさなければの御話デスが。ククク。


 落チ着けるはずがナイ、と?まぁまぁ、良いではナイデスか。ほらっ。其処に座布団敷きまシたから。そう畏まらず、どうぞ足を崩シて御座りクださい。今、お茶でもいれまシょうか?


 ……ところで。此のような形ではごザイますが、一つ小話でもお聞きになるのは如何デスか?そう長クはかからナイと思われます。私はニンゲンの世が戦乱に陥るよりも遥か昔に此の生業を始めまシてね、百年にも満たナイ寿命を持つあナタ方ニンゲンへの話の種ならいクらでも用意でキルのデス。


 シかシ今回は、近頃見かけるようになった、とある見習い死神の物語デス。ニンゲンでいう青き御歳頃にも満たナイほど幼ク可愛い子デス。姿形は所謂少年そのものデスが、我々からシたら実にあどけナイ。ええ、実に。死神の象徴たる大鎌など持ってても勿体ナイクライに。いっそ取り上げてシまイタイのデスが、そう上手クできナイのが恨めシいデスね。ククク。


 嗚呼。其の少年デスが、私とは全クもって関係はごザイません。全クとは少シ言い過ぎかもシれませんが、我々死神に血縁というものは存在シません故。デスがね、其れがまた面白クて。


 ……え?何故そんな人を殺めるようなこトガ面白いか、デスって?そう先走らナイでクださいよ。確かに死神とシて、死期を予告することに携わってナイとはクチが裂けても言えませんが。いいえ、私は元から口が開かれてオリまシたね。


 余談が過ぎまシた。其の死神少年はとあるニンゲンに的をつけたのデス。そうデス、『仕事』デス!――漸ク慣れた時分に少年は独り鎌を持っていざ出陣。闇夜に溶け込み音も無ク標的へ!少年が狙いを定めた其の先、其れは一人の少女。一見何の変哲もナイ、ごく普通の少女に思わず少年はびっクり仰天!されど務めを果たさねばと駆られ鎌をかけてシまう。シかシ、事はそう上手ク進まナイ。彼が知る其の時までは……。


 もったいぶるな、と?クっクっク。先程とは随分と態度が変わった御様子で。そう食いつかなクても御安心ください。御安心という言葉は私には全ク説得力がごザイませんが。


 彼はまだ青も真っ青でシたから、あのような仕事を全うするのも相当大変だったでシょう。彼より幾百年も永らえた私デスら、此の事例は初めて見まシたからね。



 はっきり言いまシょう。――其の少女、”死ななかった”んデスよ。




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