史上最大の平和主義者

 ある日、地球に巨大な戦闘宇宙船が現れました。それはとてもとても大きなもので、空の端から端まで、それをも更に上回る大きさでした。大気圏より外にいたとしても、地球から姿が確認出来るほどの大きさです。


 その宇宙船は先ず、嘆きの壁、キリスト教の教会や集会場、イスラム教の黒石、仏教の寺院、仏像等を破壊して行き、世界中の人々からの反感を買いました。

 そして、核兵器を初めとする、地球上にある武器の多くを奪いました。


 国連はこの事態に対して多国籍軍を組み、残った戦闘機や武器で戦闘宇宙船を攻撃しました。

 しかし宇宙船はびくともせず、そろそろ地球上の武器がなくなりそうでした。


 宇宙船の攻撃は続き、地球の各地を攻撃し、人々を怒らせました。



「宇宙船に、どうすれば立ち向かえるのだ!?」


 国連では、戦闘宇宙船を倒す為に話し合いがされていました。


「もう、世界中の何処を探しても、武器は残っていません。生産も間に合わず、このままでは宇宙船は地球を滅ぼしてしまうでしょう。」

「団結するのです!今こそ全ての国が力と知恵を集め、宇宙船に立ち向かうのです!」


 宇宙船を倒す為に、アメリカやロシアは勿論、日本や中国、スイスや韓国、そして北朝鮮までもがこの非常事態に力と知恵を集め、協力しています。


「ところで、被害はどうなっている?」

「はい、世界中の遺跡や建物が破壊されました。」

「それで、死者はどれくらいになるんだ?」

「はい。それが不思議な事に、死者はおりません。」

「は?」

「死者はおりません。ただただ遺跡や建物が破壊されているのみです。」

「うむ…信じられない事だが、何よりだ。しかし、相手は地球上の核兵器を全て奪ってしまった。いつ、それが地球に落とされるや知れない。これからも油断は出来ないであろう。」

「地球の全ての人が力を合わせれば、きっと大丈夫ですよ。」


 と、アメリカの軍人とロシアの軍人の会話…。




 ここで舞台は少し変って、数ヶ月前に…。


「神様、どうかお願いです。人々が争わない世の中にしてください。憎しみ合うのではなく、共に手を取って生きていける世界を下さい。」


 とある純粋な少年はある日、神様にこんなお願いをしていました。


「どうかお願いです。」


 物心がついた頃から世界の残忍さに涙していた少年の願いに、空からこんな声が聞こえて来ました。


「少年よ…。貴方は、世界の人々が争わなければ、他に望むものはないのか?」


 少年の純粋な願いを聞こうと、神様が降りて来たのです。


「神様ですか!?どうかお願いです!この世の人々がお互いに争わない、そんな世界にして下さい。それが叶えば、僕は何も望みません!」


 少年は、本当に純粋にお願いをしました。


「貴方のその思い、そして覚悟、確かに見た。…貴方に1つ、方法を与えましょう。」



そして場面は、また現在に…。


 少年は今日も1人、巨大な戦闘宇宙船の中で地球を攻撃しています。

 少年の後ろには、神様の姿もありました。


「少年よ、済まない。これしか、世界の人々がお互いに争わなくなる方法はないのだ。貴方には、辛い思いをさせている。」


 神様は少年を、申し訳なさそうに見ていました。

 しかしそれとは裏腹に、少年は大いに満足でした。


「神様、悲しまないで下さい。僕は幸せですから。ほら、今日もこの宇宙船を攻撃しようと、世界の人々が手に手を取って協力しています。今、僕は世界一の嫌われ者でしょう。しかしそれでも、世界の人々は皆、仲良しになりました。僕が犠牲になる事で、世界の人達がこんなに手を取り合えるなんて…申し訳ない程に有り難いです。」


 少年は、自分が史上最大の悪者になる事で、人類同士の争いをなくす事が出来ました。


「少年よ…本当に済まない。人間とは、こう言う生き物なのだ…。」


 神様は史上最大の平和主義者の前で、ただただ嘆き悲しむだけでした。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る