真・蟻とキリギリス
とある大地に、音楽家のキリギリスと、働き者の蟻さん達がいました。
春が来て、夏が過ぎて…秋が来たと同時に、収穫の時期も訪れました。
蟻さん達はその後訪れる極寒の冬に備えて、一生懸命に餌を巣に貯めました。
その一方でキリギリスは、溢れる食べ物を前にいつも遊んでばかりで、好きな音楽だけを楽しんでいました。
しかし遂に極寒の冬がやって来て、辺りには餌がなくなってしまいました。
想像通り、食べる物がなくなったキリギリスはお腹を空かせていました。その一方で、蟻さん達は巣の中に貯めていた餌のお陰で、寒い冬を乗り越えていました。
日に日に痩せこけていくキリギリスは、今日も餌を求めて外を歩くのですが、食べ物なんて見つかるはずもありません。
(もう、倒れそうだ…。)
と思ったその時、彼の目の前に現れたのは、秋の間一生懸命餌を貯めてこの寒い冬を乗り越えていた蟻さん達でした。
「キリギリスさん!」
蟻さん達は膝から倒れるキリギリスの下に集まり、彼を囲みました。
「大丈夫!?キリギリスさん!?食べる物がないんでしょ?僕らの巣に来なよ。食べ物はいっぱいあるから!」
そう言って蟻さん達は全員で、キリギリスを巣まで運びました。
(しっしっし。しめしめ。これで食べ物には困らない…。)
今のはキリギリスの心の声。
実はこれはキリギリスの作戦で、秋の内に働きもしないで遊んでいたキリギリスは、食べ物がない冬を乗り越える為に、優しい蟻さん達を利用しようとしたのです。
真面目な蟻さん達を騙す事に成功したキリギリスは、彼らの腕の中で大きく安心した様子でした。
でも、食べ物がなくて何日もお腹を空かせていたのは事実で、キリギリスはもうクタクタでした。
(あぁ…早く食べ物が欲しいなぁ、、、。)
キリギリスは蟻さん達が早く、彼らの巣に連れて行ってくれる事を望みました。
そしてやっとの事、蟻さん達の巣に到着しました。
「ここが僕達の巣です。キリギリスさん、もう安心して下さい。」
そう言って蟻さん達はキリギリスを自分達の巣の、一番大きな部屋に連れて行きました。
だけどそこには何もなく、ただただ大きな部屋でした。
「ここで、暫く待っていて下さい。食事の準備をしますから。」
蟻さん達はそう言って、キリギリスを部屋に残して何処かへ行ってしまいました。
蟻さん達がいなくなった途端、笑いが止まらなくなったキリギリス、、、。
「うひゃひゃひゃひゃ~!これでこの冬も、食べ物に困らずに暮らせる!って言うか蟻達って、真面目で馬鹿だよな~。」
キリギリスは笑って、蟻さん達が食べ物を運んで来るのを待つ事にしました。
「…。」
「……。」
「…………?」
しかし待てども待てども、蟻さん達は食べ物を運んで来ません。
「それにしても遅いな…?もう、お腹がペコペコだよ…。」
いつまでも来ない蟻さん達を待ちながら、キリギリスはもう死にそうなくらい、お腹が減っていました。
「早く来てよ~!」
お腹が空いてもう動けないキリギリスは、大きく叫びました。
「ねぇ、お母さん。ご飯まだなの!?」
この巣にいる幼い蟻さんが、自分のお母さんに尋ねました。
「もうちょっと待ってね。すぐ食べられるから。」
と、優しく返事をするお母さん。
しかし子供は大きくごねて…
「え~~!早く食べようよ~!今日はご馳走でしょ!?」
と、手足をジタバタさせました。
「あのキリギリス、さっさと食べようよ~!ちょっと痩せていたけど、美味しそうだったよ?」
するとお母さんはニッコリと笑って、こう答えました。
「もう、食いしん坊なんだから。もうちょっと待ちなさい。お父さん達が今、キリギリスに止めを刺しに行ったはずだから。」
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