第7歩 『魔手』


 「お風呂、お先にいただきました」

レイは、部屋で待っていたフラエに声をかける。

「お湯加減は、如何でしたか?」

「丁度良かったよ!疲れが取れた気がした・・・」

そう言って、レイは満足そうに首を回す。

「でしたら、良かったです。では、私も入ってきますね」

彼女は、真白ましろの髪を揺らしながら立ち上がった。

「はい、ごゆっくり」

「もう、就寝して下さってもかまいませんよ?」

部屋を出てから、ぴょこんっと顔だけ出してそう言った。

「ううん、まだ眠たくはないから」

 レイは、言って、首をふる。

窓から、外を見る限りでは大体日が沈んで、少ししたくらいだろうか。

いつものレイなら、まだ寝ていないだろう。

 レイの言葉を聞き、フラエはにこっと笑い、会釈えしゃくしてから、風呂場の方へと消えていった。



 レイは、フラエが風呂場に向かってからぼふっとベッドに倒れ込んだ。

「ふぅあ・・・・・・・・・」

ーーー少し恥ずかしいな・・・。同年代の

   女の子と話すのって・・・・・・。

 少なくとも村にいたころは、こんなことは無かった。

話していると、鼻がむず痒くなって、レイにとって初めての感覚だった。

ーーーまだまだ慣れそうにないや・・・。

   それにしても、このベッド、ふかふか

   だなぁ。


 彼は、寝ないようにしていながらも、そのまま、意識を取りこぼし、眠気の中に落ちていった。



◆◆◆



 しばらくし、フラエが風呂から上がってきた。

「レイさん、・・・・・・・・・ってあれ?寝ちゃったんですか?」

彼は声をかけても、反応せずにベッドに突っ伏している。

フラエはベッドの横に置いてある椅子に腰を下ろした。

ーーー今日の、は・・・・・・・・・。


 あれ。


 レイが自分の方に手を伸ばしてきた時。

ーーー少し、驚いちゃったけど、

   温かかったな・・・・・・。

寝ている相手に悪いとは思いつつもフラエの手は、レイの頬に伸びる。

「・・・・・・・・・温かい・・・」

 そのまま、手はレイの灰色の髪に触れる。

ーーーサラサラだ・・・・・・・・・。

・・・・・・・・・。

・・・・・・。


「・・・う・・・・・・」

これ以上は、ダメな気がした。

椅子から立ち上がり、ドアに向かう。

「レイさん、おやすみなさい」

一礼し、彼女は部屋を出て行った。



 彼女も、少年も気づいてはいなかった。

目と鼻の先に、“恐怖”が近づいていることに。



◆◆◆



 「・・・・・・・・・うぅ、ふぅぅう・・・・・・」

朝の光が森の木々を避けて、部屋に入り込みレイは、目を覚ました。

ーーーもう、朝かぁ。

フラエに挨拶をしようと、部屋を出る。

ーーー確か、フラエは左隣の部屋だって・・・・・・・・・。

 左の部屋のドアを叩く。

返事はない。

「あれ?ここじゃないのかな」

もう一度、ノックしても誰の声もしない。

「えと、開けますよ?」

ドアは、スッとなんの抵抗もなく、開いた。

・・・・・・・・・え?


 ただ、そこには、誰もいなかった。

確かに、ベッドがあり、昨日の夜までフラエが身につけていたネックレスが置いてあるが。

・・・・・・、だが、やはり誰もいない。

そして、部屋はこれでもかというぐらいに荒らされていた。

「え?なに、これ・・・・・・・・・」


 そんな中、レイの目が一点に止まる。

あれ、窓が、開いてる・・・・・・・・・。

レイの頬を汗が伝い落ちる。



 「まさ、か・・・・・・!!」

 口が渇き、ちゃんと声が出ない。

「速く、助けにいかなゃ」と、「そんな、まさか・・・!」との間で思考が猛スピードで切り替わっていく。

ーーーどう、すれば!?どうしたら、

   正解なんだっ!どう、すれば・・・・・・・・・?

頭の中に、情報が一気に入ってくる。

ーーーだ、ダメだっ、何も考えられない・・・。



◆◆◆



 その日、フラエは、彼女は豪邸から、姿を消した。



 









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