鳥籠の中の少女

第4歩 〖少女〗


 【英雄】は笑った。

まだ、恐怖で震えている少年の肩を叩き、にこやかな笑みを作って。

「次はお前が、助ける番だ」


 だから、少年は決めた。

ーーーー次は僕が、助ける番だ。

   誰かを救う、【英雄】になる番だ。


◆◆◆


 意識が覚醒していく。

最初に視界に映ったのは煌びやかなシャンデリアだった。

 

 レイは体を起こす。

見慣れない部屋だった。


 そして、その部屋の中にレイの他に人がいた。

ただし、レイのように男子おのこではなく、女子おなごだが。


 彼女はレイの髪色よりもまだ薄い白色の長髪だった。

長い前髪の間から時折見えるくれないの瞳は、じっとレイを見据えていた。

「おはようございます」

突然、彼女が口を開いた。

数秒固まって、

「お、はよう・・・・・・・・・?」

 戸惑いながらも、挨拶を返すレイに向かって彼女は微笑んだ。

「体調の方はもう宜しいのですか?」

「・・・・・・・・・え?体、調?」


 ーーーあぁ、そうか。僕は先刻、おそらく

    この家の庭で倒れて・・・・・・・・・。


「君が、介抱してくれたの?」

「はい、流石に放ってはおけませんからね」

彼女は頷き、また微笑んだ。

ーーー見た目によらず、喋る子なんだな・・・・・・・・・。

外見からは、どちらかというと物静かな印象を受ける。


「ありがとう。それと、ごめん。世話になってしまって・・・」

レイは彼女に向けて深々と頭を下げた。

「いえ、大したことはしていませんので。ですが、大丈夫ですか?随分とお疲れのご様子でしたが・・・」

やはり、彼女は微笑む。

どこか、嬉しそうに。

「少し、疲れていただけだから。君は・・・・・・・・・?」

「私・・・・・・・・・ですか?」

こてんっと首を傾げる姿は、刺紅兎レミラーゼの用で、レイの庇護欲をくすぐる。


「なにか、嬉しそうにしてるから」

「す、すいませんっ、そう見えますか?そ、そのですね。貴方が倒れられたことが嬉しいというわけではなく・・・・・・・・・」

首を振るたびに、彼女の髪の左右の一房をそれぞれ束ねたものがぴょんぴょんと飛び跳ねる。

「こうして、同族の方とお話するのは久々のことなので、つい・・・。申し訳ありません・・・・・・・・・」

彼女は本当に落ち込んだような顔で俯いた。

「う、ううんっ!それならいいんだ、けど・・・。ここには 他に誰か・・・」

「いません。私一人、なんです」

悲しそうに彼女は微笑んだ。


ーーー倒れる直前に見たこの屋敷の外観は、

   すごく大きいものに思えたけど・・・。

とても、少女一人では住んでいられそうにはない。

そんなレイの胸中の疑問を察したように、彼女は答える。


「私は、このお屋敷からは、出られないんです」


 少し、寂しそうに、やはり彼女は微笑んだ。


◆◆◆


 これは、【少年】と【少女】の出会い。

彼等の歩む道を指し示す、出会い。









 

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