第2歩 〖始まり〗
薄暗い森の中に、剣戟音が響く。
戦っているのは、10台半ばの灰色髪の少年と、野生のゴブリンだった。
少年も、ゴブリンも片手剣で相手の猛攻に応戦している。
両者が、攻めようにも攻めきれずといった戦況が続いている。
ゴブリンは大陸に生息するモンスターの中では比較的弱い方なのだが、苦戦している少年を見る限り、まだロクに戦闘経験もないのだろう。
少年の右薙ぎが、ゴブリンの肩をかすめた。
「・・・・・・ッキィイ!!」
ゴブリンが呻き声を上げ、苦痛に歪んだ顔を晒す。
それを引き金として、少年の攻撃が続いた。
ゴブリンの右太股、左脇腹、剣を持つ右手の甲、と
浅いながらも薄肌を切り裂いていく。
ゴブリンが剣を落とした。
「!!・・・・・・・・・ッグギィ!!」
一歩下がろうとするゴブリンを、しかし少年の剣は許さなかった。
その軌道は空中に弧を描き、ゴブリンの喉元を切り裂いた。
「・・・・・・・・・ッ、カッ!!」
大量に吐血し、ゴブリンは倒れる。
まだ少しだけ動き続けるゴブリンだが、すぐに力尽きた。
「・・・・・・・・・はぁ・・・。やっぱりまだ慣れないよ・・・、こんなの」
少年は、剣に付着した血を、左右に薙ぎ払って落とす。
そのまま、腰の鞘に剣を収めた。
「これで、やっと、三体目・・・か・・・・・・・・・」
少年は戦闘行為を初めて経験してから、まだ日が浅い。
と、いうか、少年にとってはこの広大な世界に飛び出したのもつい、先日のことなのだ。
◆◆◆
辺境の村。
“アジダック”
少年の生まれ育った村だ。
家は点々と、数軒しかない。
その村の入り口に少年はいた。
「じゃあ、行って来ます。母さん・・・」
「ん、いってらっしゃい、レイ。また、いつでも帰ってきていいからね」
レイと呼ばれた少年は母親に手を振り、そして旅立った。
旅立ちだ。
これが少年の冒険の始まりだ。
英雄の冒険譚の最初の1貢だ。
◆◆◆
「はい、1024カトルになります」
店員が差し出した金を少年、レイは受け取る。
カトル、それがこの世界の通貨だ。
名前の由来は大昔の女神の名からなんだとか。
レイは先刻の戦闘で手に入れたアイテムを換金しているのだ。
通常、モンスターを倒すと、モンスターの
心臓が歪な立方体になったようなものだ。
それと、同時にモンスターが生前着用していた服や、武器として扱っていた剣や弓等も落ちる。
たまに、レアアイテムとして、“なにか”が落ちることがあるが、それはモンスターによって違うし、滅多に落ちることはない。
先程はゴブリンの着ていた布と、剣、そして核を売却した。
「うん、これだけあれば、宿も借りられるな」
レイはポケットにお金を入れ、換金場所から出る。
現在、レイがいるのは、故郷、“アジダック”から南に数十レルドの地。
“イア=ダラゴ”
「え、と・・・・・・・・・。ミラド が歩いて3歩分の長さで、レルドはミラドの60倍だから・・・・・・・・・、えぇと・・・、ダメだっ、こんがらがってきたっ!!」
借りた宿のベッドの上で悶える。
兎にも角にも、レイの冒険は始まった。
伝説の“始まり”だ。
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