八月三十二日、夏の花と蝉時雨
音田 創
プロローグ
それは遠い夢の中
私は今、八月三十一日の先にいる。九月一日ではない。夏の終わりと秋の始まりの間で、私たちは自由奔放に日々を過ごしていた。
私たちしかいない街を、二台の自転車がそれぞれ二人ずつを乗せて、アスファルトの直線の上をなぞっていく。二人乗りの重さに、自転車は少しばかり悲鳴を上げているようだ。
「てか、隣町って結構遠くね? 俺、もう漕ぐの疲れた」
「だらしないな。男の子でしょ?」
「お前は乗っかってるだけだからいいよな。お前の体重分も漕いでるんだぞ」
「ちょっと、それどういう意味?」
自転車と同じように弱音を上げる漕ぎ主の背中に、少しばかりかつを入れる。何すんだ! と、彼は声を荒らげて、崩れかけた自転車のバランスを保とうと必死になっている。私は振り落とされないように、彼の背中にしがみつく。その光景に、もう一組の自転車からも笑い声が聞こえてきた。
私たちは笑い合っていた。蝉時雨の降る、夜は少し涼しくて、でも昼はまだまだ暑い、私たちだけののどかな街で。入道雲は青天を漂いながら、そんな私たちのことを静かに見下ろしている。
この夏が終わらなければいいのに――。
きっと、この季節が終わらないのは、私のせいだ。
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