あわひなぼっこ

明石竜 

【悲報】俺氏、中学時代、勉強に部活動に日々こつこつ励んだ結果wwwwwww

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↑俺が所属することになった東京都立豊鴎(とよおう)高校理数科、一年一組の男女比。男子三八名、女子たったの三名というむさ苦しさだ。しかもクラス替えなし三年間同じクラス。

確かにこの高校で一学年全七クラス中、一クラスだけの理数科は偏差値72。東大に毎年五名程度の現役合格者を出す輝かしい進学実績を誇ってるんだけど、如何せん女子が少な過ぎる。しかもその女子も三人ともたいして可愛くない。折悪しく今年度は特に女子が少ないらしい。例年通りなら十名程度はいるそうだ。

見栄を張らず偏差値10以上低い普通科に進めばよかった。

 久野木修平(くのき しゅうへい)は入学してから二ヶ月以上が過ぎた今も後悔の気持ちでいっぱいだった。

六月半ばのある金曜日。朝のSHR終了後、修平が机に突っ伏していると、

「久野木くん、今日も相変わらず沈んでいるねぇ」

 クラス担任で数学科の伊月先生がにやにや笑いながら話しかけて来た。年齢は四〇代前半。背丈は一六〇センチくらい。小太り、坊っちゃん刈り、瓶底眼鏡をかけ、見るからにアキバにいそうなオタクって感じだ。ちなみに東京理科大卒らしい。

「俺、二学期からは普通科に編入しようかな。男女比ほぼ半々だし、授業もそっちの方がずっと楽だし」

「久野木くん、きみはこのクラスでも成績良い方なのだから、そんなことしたら極めて勿体ないよん。かわいい女の子達に囲まれてハーレムな学校生活を送りたいというのならば、乙女の園、体験させてあげるよーん」

「どうせ二次元なんでしょ?」

「いやいや三次元さ。うちの学校と単位互換提携してる、神戸にある〝女子小中高一貫校〟なんだけど、来週月曜から三日間ほど、そっちの学校で授業を受けてみないかい?」

「そういやそんな制度もありましたね。女子校の授業なのに男でも受けれるんですか!?」

「もちろんさ。学籍は置けない短期間の体験授業扱いだからね」

「じゃあ俺、ありがたく利用させていただきますっ!」

 修平は悩むことなく即決意した。

「そうか。なら向こうに連絡しておくよん。純情可憐、純真無垢なかわいいお嬢様ばかりだよん」

「それはとても楽しみです♪ でも神戸かぁ。交通費、宿泊費かなりかかるなぁ」

「おいらが全額サービスしてあげるよん。三宮からお迎えの車もね」

「厚待遇ですね。ありがとうございます伊月先生。何ていう学校名なんですか?」

「それはヒミツだよーん。現地に着いてからのお楽しみってことで良いではないか」

「気になるけど、確かに事前情報なしで行った方がより楽しめそうですね」

 そんな会話を弾ませていると、

「先生、オレも参加しまーすっ!」

 修平の小学校時代からの親友、竹淵拓郎(たけぶち たくろう)が駆け寄って来てやや興奮気味に希望を伝えて来た。丸顔でぽっちゃり体型の子だ。

「竹淵くんはダメだな」

「なんでだよ?」

「だってきみ、新入生テストもこの間の中間テストも、クラスでビリだっただろ。単位互換制度を利用出来るのは、校内テストでクラス平均点以上取れた子だけなんだよーん。きみが利用してうちの学校の授業休んだら、ますますついていけなくなっちゃうよん。それにきみ、来週小テストの再試験もあるではないか」

 伊月先生はにこにこ顔で得意げにおっしゃる。

「そんなっ。確かにオレ理数科じゃビリだけど、学年全体で見りゃぁ平均点以上には」

 拓郎はがっくり肩を落とした。

「高校の授業っていうのはね、クラスによって習う範囲や科目が異なるから、クラス平均点が重要なんだよーん。竹淵くん、そんなに落ち込むなよん。おいらは二次元の方がよっぽどいいと思うよん」

「ボクも同意ですね。三次元にはろくなのがいないよね」

 修平の幼稚園時代からの親友で、現時点ですでに東大理Ⅰに合格出来そうな学力を有する亀村秀文(かめむら ひでふみ)も会話に加わる。逆三角顔、七三分け、四角い眼鏡。まさに絵に描いたようながり勉くんな風貌の子だ。

「理Ⅲ現役合格期待の星のきみも、久野木くんといっしょに乙女の園で体験授業を受けてみないかい? きっとモテるよん」

「いえけっこうです。ボクは二次元一筋なのでー」

「ハッハッハ。予想通りの返事だな」

「オレは二次元美少女キャラよりは中の声優さんと付き合いたいわ~」

「俺も深夜アニメに出てくる二次元キャラもかわいいなって思う子はいっぱいいるけど、やっぱ三次元の方がまだいいな」

「そうかぁ。久野木くんにはリアルに彼女がいるもんね」

「伊月先生、彼女じゃないですって。あの子は強いて言うなら俺の姉的な存在だな」

「ハッハッハ。リアル姉と近似かぁ。では久野木くん、来週から楽しんできたまえ」

 伊月先生はにこにこ顔でそう伝えながら、次授業が組まれてある一年二組の教室へ歩を進める。

「はい、目一杯乙女の園を楽しんで来ます♪」

修平は期待感高まり嬉しさいっぱいだった。

 お嬢様学校みたいだし、縦ロールで一人称がわたくしでオホホホって笑って、ですわって語尾の高飛車お嬢様タイプな子とか、ごきげんようって挨拶して、上級生をお姉様って呼ぶ子も本当にいたりして。まあいないだろうけど、もしかしたら……神戸ってお上品なお嬢様多そうだし。芦屋の六麓荘に住んでて、ベンツとか超高級車で送り迎えしてもらってる子は、実際いるんじゃないかな? あと百合カップルも。

 そんな妄想に浸っていると、

「修平、羨まし過ぎるぅぅぅぅぅ。女子小中高生の超高画質写真いっぱい撮って来てくれよぅ。出来れば動画も。ただしビッチはいらねー。清楚で大人しい子に限るっ!」

 拓郎に両肩をガシッと掴まれ体を揺さぶられ、涙目でお願いさせてしまった。

「なるべく頑張るよ」

 修平は苦笑いだ。 

「リアルな女の子の学園生活を覗いても、萎えるだけだとボクは思いますけどね。たとえ清楚で大人しい子であっても」

 秀文は得意げな表情で主張した。

     ※

 一時限目後の休み時間が始まってほどなく、

「修平くん、私もいっしょに行くよ。遠い場所だし、修平くん一人で行かせるのは心配だから」

 伊月先生にリアル彼女と突っ込まれた修平宅のお隣に住む幼馴染、一年二組の松永智景(まつなが ちかげ)が一年一組の教室へやって来た。

「いや、大丈夫だって、俺一人で」

 智景ちゃんといっしょに行くと、絶対向こうの学校の子達からきみの彼女? とか訊かれるだろうな。

 修平はそんな理由から嫌がるも、

「もう申し込んだからね。私も女子校の雰囲気、一度体験してみたかったの」

 智景は参加する気満々だ。背丈は一六〇センチくらい。ふんわりとしたほんのり茶色がかった黒髪をミディアムストレートにし、丸顔ぱっちり垂れ目な高校生としては少し幼く見える、おっとりのんびりとした雰囲気の子である。

「拓郎くん、参加出来なくて残念だったね。勉強頑張って次の機会で利用出来るように健闘を祈るよ」

「あっ、いや、オレ、べつに、どうしても行きたいってわけでもなかったし」

 拓郎は俯き加減で慌て気味に伝える。智景に限らずリアルなかわいい女の子に話しかけられるとかなり緊張してしまうのだ。拓郎は何とかこの性格を克服したいと思っているようではある。

「秀ちゃんもいっしょに参加すればいいのに」

「その、ボクは、単位互換制度には全く興味ありませんので」

 秀文も緊張気味になって縮こまる。彼も拓郎と同じく、リアルなかわいい女の子が大の苦手なのだ。

「それは勿体無いと思うけどなぁ。豊高ならではの制度なのに。それじゃ、修平くん、また後でね♪」

 智景は楽しげな気分で自分のクラスへ戻っていった。

「拓郎、智景ちゃん一人に話しかけられたくらいでこのざまじゃ、お嬢様学校行ったら絶対ぶっ倒れるぞ。参加出来なくてよかったな」

 修平はそう言って笑う。

「そうかもしれねえが、へこたれずより大勢の現実の女の子となるべく触れ合おうとすることで、きっとオレの三次元女苦手意識は無くなると思うんだっ!」

 拓郎は両拳を握り締め、きりっとした表情で強く主張した。

「俺はそうは思えないけどな。むしろますます酷くなるような」

「ボクも同意見だよ。竹淵君、もう諦めてボクみたいに二次元の世界で生きましょう」


            ☆


 日曜の夕方六時頃。

「修平くん、お財布と勉強道具と体操着と三泊分の着替えと洗面用具、あと、水泳の授業も参加させてもらえるみたいだから水着も。全部揃ってるかな?」

「大丈夫だって。もう何度も確かめたし」

「携帯も今のうちに鞄に入れておこう」

「それは明日の朝でいいんじゃないか。これからまだ使うし」

「ダメ、ダメ。折り畳み傘も忘れずにね。明日は神戸、朝のうちまで雨みたいだよ。あともう一つ大事なことだけど、服装もいつも以上にきちんとしなきゃダメだよ。お屋敷住まいの子だらけって伊月先生言ってたから」

 智景は修平のお部屋にお邪魔して、修平の旅行用鞄を開けて必要な持ち物の最終チェックをわざわざしに来てくれたのであった。

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