落書きノート
秋雨あきら
1頁目「アパートに鶏の幽霊が出る」
格安のアパートに越してきた。
不動産屋の主人に、駅前なのにえらく安いっすよねと尋ねると、
「出るんですよー」
と言われた。少しは誤魔化せよと思わないでもなかったが、
「ニワトリの幽霊がねー、出るんですぅー」
ニワトリとな。
「毎朝、毎朝、鳴くんですよー、部屋のなかでー」
そりゃ、ニワトリだものなぁ。
「卵は産まないんですけどぉ、毎朝コケコッコーって鳴くんですぅ。しかも何故かその部屋の住人にだけ聞こえる声でねぇ。やかましいったらありゃしない」
なるへそ、なるへそ。
「しかも、こっこ、こっこ、言いながら部屋を歩き回るわけですぅ。半透明のニワトリが部屋の中をうろうろと……」
事情はわかった。とりあえず案内してもらった。
確かにニワトリがいた。六畳一間のフローリングの床から三センチほど離れた空中を、こっこ、こっこ、言いながら浮遊している。
「怖いですか?」
「いや、怖いかと言われたら、さっぱり」
「ですよね。けどね、朝になったら鳴くんですわぁ。テメー、このチキンやろー、首しめたろかいって思えるほどにね。けど幽霊なので擦り抜けるんです」
「耳栓をしてたらどうなんですかね」
「それがねぇ……奴の鳴き声と来たら、何故か耳栓ガードをしていても貫通するというか……脳内に直接、声をかけるように響くんですよ」
「おはらいをしてもらったらどうなんですか?」
「してもらいましたよ。けどね、どこの坊さんもこんな幽霊見た事ないって。害もないそうだから、適当に放っておいたらどうかって」
「はぁ……そっすか」
悩んだ末、試しに部屋を借りてみた。
その晩、早速部屋に布団をしいて横になった。
「そんじゃあおやすみ。一応目覚ましはかけてるが、6時になったら起こしてくれ」
「こっこ、こっこ……」
そして俺は眠った。深い深い眠りにおちた。そして翌朝、とてつもない『ゴケェコッゴオオオオオオオオオオォォ!!』で目を覚ました。
「こっこ、こっこ……」
「フッ、やるじゃないか……」
ゆっくりと起き上った。そして幽霊のニワトリに言ってやった。
「俺は寝起きが超絶に悪くてな」
「こっこ、こっこ……」
「昔の少女マンガの主人公よろしく、目覚ましが鳴れば即座に壁に叩きつけ、ことごとく破壊してしまう
そう。やはり今日も壁際を見れば、無残に破壊されつくした、機械じかけの目覚まし時計の残骸が散っていた。生きているのは、幽霊のニワトリ野郎だけだ。
「こっこ、こっこ……」
「だが、おまえは今までの目覚ましとは違うようだな……擦り抜けるせいで掴めやしねーし、ましてや壁に叩きつけるなんてできやしねぇっ!」
「こっこ、こっこ……」
「野郎、気に入ったぜ。俺はここに住む! 今夜からよろしくな、相棒!!」
「こっこ、こっこ……」
数日後。
「大家さん、すまん。賃貸の契約を解除したい」
「あ、やはりニワトリの声がうるさかったですかぁ? 一週間滞在された方は初めてでしたけどぉ……」
「いや、目覚ましに問題はなかった。ただ、奴の身体が擦り抜けるもんでな……手を散々床にぶつけたり、振りかぶったりしまくったせいで、骨折した」
「……そうですか、お大事に……」
「あぁ、悪かった。しかし奴の名誉と友情にかけて言っておくぜ。あいつは、あのチキンヘッドゴースト野郎は、本物の目覚ましってやつだよ……」
「すいません、意味がわかりません」
完。
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