神童の別れ

「流石に寝ておく」

 自身の過去を話し終えた後、先生はそう言って自室に戻った。

 まるで映画のような話だったが映画のように感想を話す物でもない。

 俺と智野も先生と同じように自室に戻り、眠りについた。


 *


 翌日、俺たちは人の近寄らない平原を訪れていた。

 何か違和感を感じ、視界を変える。

「……あれですかね」

「だろうな」

 少し先に三匹の特異な生命力が見える。アルスが連れている犬のキメラだ。

 その三匹に囲まれた中央にアルスが微動だにせず立っているその手の中には意識が無いらしいコカナシがいる。

「……何かしていないだろうな」

「鎮静剤と睡眠薬くらいだな。もちろん医療の範囲内だ」


「……うわ!」

 先生が通る時は見向きもしなかったキメラが俺たちに向かって威嚇してくる。あくまで通すのは先生のみだと言う事か。


「此処に来たって事は取り引きに応じてくれるんだな」

「……ああ、応じるとも」

 先生が懐から小瓶を取り出す。その中身は先生の母の形見である万能の素材、エルフの血だ。

「それではない」

「は?」

「欲しているのは、其方の取引材料はソレでは無い」

「……何がお望みだ」

「お前だ、キミア」

 先生が口を開く前にアルスは続ける。

「その万能の素材よりお前自身の方が価値がある。なあに、縛るつもりは無い。ニャルのように自由にしているといい」

「ニャルのように……か」

「ああ、アイツのように錬金術を研究していれば、それで良い。お前がどんな研究をしようと錬金学を進める事になるだろう。それは……この少女の仕組みを利用するよりも価値がある」

「…………」

 葛藤しているであろう先生を見てアルスは少し肩を落とす。

「これでも難しいか。ならば方向転換だ」

 アルスがポケットから瓶を取り出し……中の液体をコカナシに飲ませた。

「……!?」

 瞬間、先生が動き出す。懐に忍ばせていたらしいナイフを手にアルスに向かって走る……が。

「急くな、キミア」

 アルスは落ち着いたままコカナシを放り投げる。ナイフを捨ててキャッチした先生がエルフの目でコカナシを診察し、ゆっくりとアルスの方を見る。

「何を飲ませた」

「完成した分解薬だ。錬金術による結合のみを解除する、普通の人体にそこまでの影響はない」

 聞いた話から推測するなら異物により腹を壊す程度の症状で治る。ならば何を……?

「あ!」

 智野が声を上げる。

 少し考えた後俺も気づく。そうだ、コカナシだけはアレを飲んだらダメだ。

 だってコカナシは……コカナシの内臓は、錬金術で出来ているのだから!


 *


「アルス、お前、何をしたいんだ!」

「お前の錬金術が見たい、それだけだ」

「何を…………!」

 先生はエルフの血を取り出す。

「そうだキミア! その内臓は分解されただけ、再度合成すれば元通り! 不足分などはその万能の素材が解決してくれる!」

「…………」

「技術的に出来ないとは言わせないぞ。オレに出来てお前が出来ないなどあり得ない。さあ! 錬金術を使え、キミア・プローション!」

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