アルスから奪還したコカナシは二人が連れて行く事になった。彼女の故郷には何も残されていない。

 アルスの錬金術は見事な物で内臓の機能に一切の綻びは無かった。しかし……


「あれから一言も話さないですよね」

「精神的な物だろ、時間をかけるしかないさ」

 そう、あれ以来彼女の声を聞いた物はいない。食事も睡眠も全て十分に、何なれば雑用を自分から買って出たり、コミュニケーションを取ったりはするのだが話す事だけはどうしてもしなかった。

「どうするつもりですか? 彼女」

「このまま連れていってもいいけど……不安定な状態であまり連れ回すのもなあ」

 ゲンは地図を広げて少し考えた後、とある内陸地域を指す。

「しばらくはツェットに滞在するか」

 その名はキミアの記憶にも入っていた。確か国家資格の総本山、ありとあらゆる資格試験が行われる文明の町である。

「……何故そこを?」

「どっかでやらなくちゃいけない事があったからな。ツェットならちょうどいい」

 キミアが更なる疑問を吐き出す前にゲンが口を開く。

「キミア、お前は学校に通え」

「…………何故?」

「錬金薬学師になるんだろ? 薬品を売るにゃあ資格が必要だ」

 そこまで言われればキミアもその意図に気づく。この国で薬品を売るには『薬剤師資格』が必要になる。

 資格試験を受けるための条件は幾つかあるが、その中の一つが国が定めた学校を卒業している事だ。

 もしそうでない場合は推薦権利者からの推薦を受け『準薬剤師資格』をとった後、現場での実践経験を数年積まないといけない。

 学校を卒業して資格を取る方が一般的であり、確実だ。

 いつかはしないといけないその数年をココで終わらせてしまおうと言うわけだ。

「わかりました。では、ツェットに」

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