錬金薬学のはじめ『最後の少女』
①
キミアとゲンが旅を始めて一年程の時間が経った。
「師匠、これから行くのは何処なんですか?」
「ミルフィって言う小さな村だ、聞いたことくらいはあるだろ?」
「独特な建築法を持っていると聞いたことがあります。材質の違う木を四角に切り出して積み木のように組み上げる、でしたっけ」
「間違っちゃあいねえけどさ……お前はほんと技術関連しか興味がないのな」
「他に何かありましたっけ」
「かつて争っていた小人族と巨人族が和解した地、今もなお小人族と巨人族が手を取り合って暮らしている村だ」
「へえ、そうなんですね」
「興味なさそうだな……」
「故郷を離れるなんて考えもしませんでしたから、他の場所の歴史なんて見もしなかったです」
そう言ったキミアの瞳に木組みの家が映る。
「師匠、あれ」
「やっと着いたようだな。どんな郷土料理や食材があるか楽しみだ」
*
ミルフィの人たちはキミア達を快く受け入れた。宿泊施設のない村だった為、二人はとある家にお邪魔する事となった。
「すいません、ご厄介になります」
「大丈夫ですよ」
二人を迎えたのはカフェオという苗字の気の良さそうな小人族と巨人族の夫婦だった。
「ほら、コーちゃんも挨拶しなさい」
小人族の母親の足に隠れるようにしていた小さな少女は顔だけを出して二人を見つめている。
「……こんにちは」
すぐに引っ込んだ頭を母親が撫でる。
「すいません、恥ずかしがり屋で」
「いえいえ、可愛いですね」
「客室は自由に使ってください。もう少しでお昼ご飯が出来上がります」
「あ、手伝います。てか見たいです!」
「見たい、ですか?」
「はい、実は栄養士を目指していて……」
ゲンが居なくなり、部屋にはキミア一人となる。
家の特殊な構造は何となく見終えた。やる事も無いキミアはいつも通り錬金薬学の練習を始める事にした。
錬金術のように入り込んではいけない。あくまで薬学の延長、外からの補助にのみ錬金術を使うというのは錬金術師であったキミアからすれば逆に難しい事であった。
錬金術の光が消える。出来上がった薬は予定より効能が良くなり過ぎている。
「……入り込み過ぎか」
錬金薬学において錬金術はあくまでサポートに過ぎない。元々そこまで効率は良くない錬金薬学に過剰な効能はご法度である。
しかし目標より効能が高くなった薬を捨てる理由はない。保管容器に液体状の薬を入れ、体を伸ばす。
少し後ろに広がった視界の端に赤いモノがチラついた。いつのまにか隙間風を放っていた扉の方に目をやる。
「どうした」
声をかけるとソレがサッと扉の裏に隠れた。
キミアは頭を掻く。ずっと錬金術に没頭していたキミアは目上以外との関わり方が未だ掴めないでいた。
同年代でも友人と呼べたのはアルスくらいだったのである。
「…………」
しかし今あの子に恐れられているらしいという事は分かっていた。
外の人が珍しいというのならば人の良い師匠の所に行くだろう。それでも自身のところに来るというのなら、その興味は……
「邪魔しないのならば見ていいぞ」
そう言うと扉がゆっくりと開く。その先にいたのは予想通りこの家の少女。
キミアは少しばかり記憶を遡り、親が雑談の中で使っていた彼女の名を思い出す。
「コカナシ、だったか」
少女は口ではなく首を動かした。
キミアが机に向かい錬金の準備を始めるとコカナシが少し離れた隣に来る。
「錬金術ってなに?」
キミアは「そこからか」と心の中で思いつつ、この少女にわかるように言葉を簡略化していく。
「何かと何かを繋ぎ合わせる……混ぜる技術の事だ。今からやるのは正確には錬金薬学だけどな」
「やくがく?」
キミアは「それも難しかったか」と頭の中で言葉を更に分解する。
「錬金術で薬を作ってるんだ」
「お医者さん?」
「まあ、そんなところだ」
「すごいね」
キミアはカバンから出したマスク付きゴーグルを渡す。
「万が一がある。付けていろ」
「うん」
そのままキミアはコカナシの服装に目を向ける。
デザインはどうでもいい。長袖と足が完全に隠れている長くて横に広いスカート、これは良い。しかし首元が見えているのが気になる。
「これもだ」
渡されたビブのような布コカナシは頭につける。カチューシャのようで似合ってはいるが、もちろん用途が違う。
小首を傾げるコカナシの首元にきちんと布をつけ、錬金石に体力を込める。
「見て分かるものではないが……まあ、見ているといい」
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