⑬
「ごめんケテリ……あれ?」
部屋を出るとケテリの姿は無かった。代わりに二匹のキメラ豚、ファイバーとプラティカルがブヒブヒと鳴きながら床の匂いを嗅いでいた。
「あの……プラティカル?」
こちらに気づいたプラティカルが一枚の紙を咥えてきた。涎まみれのソレには少し乱雑な文字が書かれている。
『先に行ってます。ファイバーとプラティカルは自由に、怪我なく使ってあげて。 ケテリ』
「……まじか」
確か智野の場所を知っていたのはファイバー、なら……
「プラティカル、この奥にいるアデルを助けてやってくれ」
俺の言葉を理解したらしいプラティカルがブヒブヒ言いながらアデルの元へと向かうのを見届け、ファイバーに跨る。
「本来の目的地に向かってくれ」
「ブッヒィィィィ!!」
*
「どぅわっ!!」
数分進んだところでファイバーが急ブレーキをかけ、俺は少し遠くの瓦礫に顔を埋めた。
「これって……瓦礫?」
体制を整えて辺りを見渡す。瓦礫になっていたのは恐らく防火扉。銃火器で壊したというよりは鈍器で殴り壊したような感じである。
「ここら辺の防火扉は問題なし、か」
ファイバーを帰して散策していると遠くから聞き慣れた駆動音が近づいてきた。
これは智野の車椅子、それも全速力。
俺を見て止まったソレにはモウも乗っていた。
「智野! どうした!」
「隆也!? なんか怖い女の人に追われてるの!」
「……シスターズ、長女」
「とりあえず攻撃されてるんだな」
「うん、逃げないとそろそろ追いつかれ……」
少し向こうで爆発音。三女といいシスターズというなは人間とは思えないやつらの集団なのか。
「逃げ続けても多分持たない。相手はこの施設を把握している」
俺が防火扉を閉めたのを見て智野が口を開く。
「その、防火扉も壊してくるの。だから逃げなきゃ」
「ああ、さっきその瓦礫を見た」
そしてソレに触れた。だから俺には分かる。
「強化してやればいい」
「強化? バリケードとか作る時間は……」
「そうじゃなくて」
閉めた防火扉に指輪を当てる。小さく石が光を放つ。
「もしかして……錬金術?」
「ああ、この施設の大部分は錬金石入りだ」
*
「……よし」
防火扉を強化したタイミングで向こう側から足音が聞こえた。
いや、足音というよりは……
「大剣でも引きずってるのか?」
「うん、すっごく大きいよ」
念のため智野はコンパクトガードナーを開き、俺はグローブに体力をこめる。
「まぁた防火扉だぁ? さっきド派手に壊してやったろ。ちったぁ学習しやがれ!」
向こう側から聞こえた声と共に廊下全体に金属音が鳴り響く。防火扉は揺れたものの傷ついてはいない。
「なんだぁこれ……しゃあねぇか」
舌打ちの後、引きずる大剣の音が遠ざかっていく。
「諦めた?」
「……回り込んでくる、かも」
全員が防火扉に背を向けた瞬間、今度は明確な足音と共に長女が帰還する。
「助走だ! 気をつけろ!」
言った時には既に遅し。防火扉は突き破られ、姿が露わになる。
「あぁ? 一人増えてんな。この扉はお前のせいか」
両手持ち用であろう大剣を片手で振りまわす。
「もう一度自己紹介しとくか」
身にまとうは所々破れた服、されど下から見える肌には傷一つない。
「傭兵部隊『STS』かすり傷だらけの長女だ。冥土の土産に覚えておきな」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます