錬金集合智『トリスメギストス』〜神愛なる少女〜

「長かった……ほんと色々と長かった……」

 智野との合流も無事終わり、俺たちはアルカロイドに帰り着いた。

「あっ! ようやく帰って来たね!」

 仕入れでもして来たのか巨大なリュックを背負ってよろよろとアデルが歩いてきた。

 ああ、そうだ。こいつには謝っておかねばならない。

「すまんアデル。ヨロズさんから預かっていたストックボックスなんだが……」

「ああ、聞いている。緊急事態だったのだから仕方ない、今度の飯は奢って貰うけどね」

 差し出された手に無事だった二つのストックボックスを置いたところで疑問符が浮かぶ。

「聞いた? フィジーさんから電話でもあったのか?」

「いや? あれ、フィジーに会ったのかい?」

「傭兵団には世話になったけど……フィジーさんじゃなけりゃ誰に聞いたんだ?」

「客人が来ていてね、その人達から聞いたのさ」

「客人? どっかの商人か?」

「いいや、違うよ」

 落ちかけたリュックを背負いなおし、アデルは俺たちを指す。

「君たちの客人さ!」


 荷物を置き、智野と二人アデルの家に入ると三つの視線が俺たちを捉えた。

「おや、随分と遅かったじゃないか」

「マッカファミリー……」

「そうですとも、久しぶりですねタカくん。ほら、モウも挨拶を」

「…………」

 小さく頭を下げたモウはマッカさんに目を向ける。

「あの、俺たちに用があるって聞いたんですけど」

「……あの店主はどうしたんだい?」

「先生とコカナシはもう少ししたら来ます」

「ならそれまでお茶にでもしようかね」

 マッカさんの視線を受けて二人が台所に向かう。

「アデルさん、コップをお借りしますね」

 手慣れた手つきで紅茶を入れていく。随分と前からアデルの家に居たようだ。

 彼らはそこまで遠くに飛ばされたわけでは無いのだろう。

「……あれ?」

 それまで黙っていた智野が首をかしげる。

「ニャルちゃんは?」


 *


「さて、お知らせだよ」

 全員が揃ったタイミングでマッカさんが紅茶で喉を潤して切り出す。

「ニャルがゲラシノスに連れ戻された」

「えっ!?」

 驚いたのは俺とコカナシ。先生はいつものように動じず、智野は予想していたのだろう。

「と、言っても何かされるわけでも無いんだけどね。あれ程の才能があればトリトスでは最高ランク、相当優遇されるだろうさ」

「でも……自由では無いんですよね?」

「あれだけ逃げ回ったんだ、しばらくはトリトスの管轄内だろうね。それでも羨ましい暮らしだと思うけどね」

「それを伝える為にわざわざここまで?」

「そんなわけないだろう? そうだとしても伝言を残して帰ってるさ」

 マッカさんは全体に向けていた視線を俺と智野に絞る。

「アンタ達はこの情報を得てどうする? いや、どうしたい?」

「…………」

 答えかねていると智野が先に口を開いた。

「わたしは、助けたいです。トリトスにいた方が最終的にはいいとしても、今のニャルちゃんの選択を優先したい」

「俺も……同じです」

 笑みを浮かべた彼女は視線を先生とコカナシに移す。

「若い二人はそういうと思ってね、だからアタシ達はここで待っていた。アンタならアタシの意図が読めるだろう? 店主さん」

 先生は手の甲で眼鏡を上げ、長い溜息をつく。

「アデル、部屋借りるぞ」

「もちろんいいとも。僕が立会いになろう」

 アデルを皮切りに先生とコカナシ、それからマッカファミリーが立ち上がる。

「あの、何処に……」

「お前らは待ってろ。役に立たん」

 それだけ言い残して皆は違う部屋に入っていった。

「…………」

 智野と目を合わせ、共に首をかしげる。

「とりあえず……助けにいくのかな?」

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