キメラ・ハウスからの脱出劇
①
「……っ」
目を開ける。薄暗い部屋、目の前には鉄格子、その向こうはカーテンだ。
右手だけ手錠がついている。先は部屋の角に繋がっているが鎖は随分と長い。恐らくこの部屋を動く分には不自由ないだろう。
いかにも牢屋……かと思えば床はなんだか柔らかい。部屋にはベッドが二つある。その内の一つにわたし、屋久寺智野、そしてもう一つには……
「コカナシさん?」
呼びかけると彼女はゆっくりと目を開ける。
「……あ、智野、おはようございます」
「いや、あの、ここは……」
確かわたしはデュパンさんに騙されて攫われて……
「コカナシさんはなぜここに?」
「時間の辻褄が合わないのに気づいたので聞き回っていたのですが、その時智野がデュパンと歩いているのが見えたので付けてきました」
「侵入したって事ですか?」
「いえ、攫われたフリをして智野達と一緒に入り込みました」
「わたし……達?」
「攫われた村の人達も一箇所に集められていて、私達が到着したタイミングで一緒にここへ」
つまりあの村での仕事は終わったという事だろう。シエスタちゃんは無事だろう。
「で、ここが本拠地ってことですね」
「ま、そうなりやすねぇ」
鉄格子の向こうから細い目をした男がこちらを覗いている。
「どうもお嬢さん方。ワッチはこの部屋の監視人、コードネームはウリボウでございやす」
ウリボウは持っていた冊子を投げた。
「この施設のマニュアルですわ、簡単に口頭説明しやすぜ」
コカナシさんが冊子を持ってベッドに乗る。ホッチキスは使われていないようだ。
「お嬢さん方はワッチら組織の商品、ここは倉庫みたいな所でさぁ。暴れたりしなきゃあ直ぐにショーケース部屋に移動になるぜい」
ページをめくるとショーケース部屋の画像が乗っている。一部屋ではあるがそこら辺の家より豪華な個室だ。
「監視カメラこそあるけど監視人はいねぇ。ここよりはマシだぁな」
ウリボウはポケットから手帳を取り出して数ページめくる。
「まあ二人ともいい容姿をしてるから酷いところに買われる事はねぇと思うぜい。大人しくしてショーケース部屋を目指すが吉でさぁ」
ともかく大人しくしとけと言うことらしい。遠回しににも程がある。
「アレルギーはないな? よし、なら二時間後に飯だ、大人しくしてな」
ウリボウはそう言って鉄格子の前から姿を消した。回りくどい人だ、鬱陶しい。
*
囚われてから数日が立ち、いくつかわかった事がある。
ウリボウが監視しているのはわたし達だけでは無いという事。どうやらこのフロアにはいくつか部屋があるらしい。
ウリボウは定期的にフロア内を巡回しており、それ以外の時はフロアの入り口近くにある部屋で待機しているようだ。
脱出する為の障害は手錠の鎖と鉄格子、それからウリボウの監視という事だ。外には監視カメラもあるかもしれない
「どうしましょうか……」
「手錠と鉄格子はどうにかなりますが……監視が厄介ですね」
手錠と鉄格子はどうにかなるんだ……何か道具でも隠し持っているのだろうか。
とりあえず残るは監視、ウリボウを力ずくで取り押さえるという手はあるが……恐らく応援が来る、なるべく秘密裏に脱出したい。
そんな思考を巡らせているとフロアのどこかにあるらしい電話の音がした。
足音がそっちに向かい、音が止む。
「コードネームウリボウですよい。……お前か、確か巡回中だったよな」
何やら数回言葉を交わし、ウリボウは溜息をつく。
「中性族が三人。男が二人に……一人は見分けがつかないっと。この施設を探している感じか? ……わかった、ワッチが行く、そこで待ってろ」
受話器を勢いよく置いてウリボウはまた溜息をつく。
「もうすぐドラマだっつうのに……くそっ」
悪態をつく声が遠くなっていく。もしかしてこれは……
「今、監視人はいない感じですかね?」
「恐らく、物音も聞こえません」
わたし達は顔を見合わせて頷きあう。
「手錠と鉄格子はどうするんですか?」
「え? そんなの簡単ですよ」
コカナシさんは手錠に繋がる鎖を持つ。
「わたしのは小人族用、小さいのはもちろん強度も小人族用みたいですから……やっ!」
勢いよく引っ張ると鎖が少し曲がった。手錠から鎖を外したコカナシさんは鉄格子を掴む。
「確かここら辺が脆くなって……ほら」
鉄格子もひん曲がる。曲がったのは少しだがコカナシさんなら通れるくらいだ。
「では、ウリボウの部屋に行って鍵を取ってきます」
牢屋を出て駆けていくコカナシさん。数秒後に窓ガラスを割る音がした。
「そんなのありか……」
唖然としてる間に鍵と車椅子を持ってくる。
「智野の車椅子と私達の荷物も置いてありました」
コカナシさんはメイドのようないつものカチューシャをつけて上機嫌である。
「とりあえず出ましょう。入口近くに監視カメラがあるのでブレーカーでも探しましょう」
「は、はい……」
さっきまで囚われていた人とは思えない。手際と力がヒーローである。
「ブレーカーありました!」
壁沿いを探しているとブレーカーは簡単に見つかった。監視カメラの表示がある所を落として入り口に向かう。
「なっ、ちょっ、脱走!?」
一瞬で見つかった。恐らくウリボウと入れ替わりにきた人だろう。
「私が!!」
間髪入れずに男の方へ走っていくコカナシさん。その拳が届く前に男が一瞬痙攣してその場に倒れこむ。
「え……?」
「女性二人が脱走とはたくましいね。そういう人達、僕は好きだよ」
男の後ろから現れたのは黒いトレンチコートとソフト帽を身に纏った小柄な男性。
「警戒しなくていい。僕も脱走者だ」
「……何者ですか?」
「じゃあとりあえず名乗ろうか」
警戒を解かないコカナシさんに男性は持っていたスタンガンをポケットに入れ、両手の平を見せて笑顔を向ける。
「僕は探偵。私立探偵社オーギュストの探偵、デュパンさ」
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