⑥
翌日、昼食を食べ終わった頃にデュパンさんが訪ねてきた。
二人外に出たところで足を止める。
「さて昨日話して貰った事件から五日後。今のところ最後の事件……その被害者はもう知っているね?」
「シエス……シエンシスちゃんのお姉さん、ですよね」
「そうだね。買い物に行った後行方知れずだ。だからシエンシスからは有力な情報はない」
「じゃあ彼女を直前に見た人は?」
「もちろんいるとも」
デュパンさんは風に帽子を元に戻して自身を指す。
「最後の目撃者は、俺さ」
*
見上げるほど高い時計台。時計の裏には白い何かが埋め込まれている。
「これはこの村のシンボル、真紅なる龍の目さ」
「真紅なる……? 白じゃないですか?」
「あれは塩になったからだな、少し雑談と行こうか」
デュパンさんが近くの椅子に腰を下ろす。車椅子を横につけると彼は話を始めた。
「昔の話、まだ龍の類が絶滅していない頃だな。この地域で食物連鎖の頂点は真っ赤な目をもつ緑色をした一匹の龍であった。
元々力より器用さで生きていた小人族はこの龍のおこぼれを糧にしており、かの龍を神龍と崇めていた。
しかし龍とて生き物、あらゆる生き物が避けられないモノが龍にも訪れる。
龍は己の最期の地を母なる海に定め、その身を海……この先にある海へと沈めた」
ここでデュパンさんは時計台をチラリと見た。
「龍を失った小人族は生き残る為に集落を作り上げた。
そして月日は流れ、集落が村に成長した頃、海岸に一つの大きな白いモノが流れ着いた。
舐めてみると予想通り塩の味、巨大な岩塩だと村人は思い、皆で持ち帰る事にした。しかしその途中表面の一部が剥離し、見えたのは赤い何か。
今まで見たこともないような真紅の硬い球体。文献を漁って村人たちは行き着いた。これこそがかの龍の赤き目である、と。
神龍の加護が降り注ぎますように。そんな願いを込めながら村人は時計台を建て、そこに真紅なる龍の目を埋め込みましたとさ……」
これにておしまい、とばかりにデュパンさんは長く息を吐いた。
わたしは時計台を見上げる。名付けるならば塩の柱といったところか。
しかし目が塩に囲まれて流れ着く……他のパーツは何処にいったのだろうか。龍の身体は緑色だと言っていたし赤いところは目しかないという事か。
「ま、いっか」
真実はどうであれロマンのある話だ。うん、浪漫は物語の始まりでありスパイスだ。
「さて、本題に戻そうか。シエンシスの姉の目撃談だったな」
デュパンさんは記憶を探るように目を閉じる。
「あれは五日前の話。俺は彼女をここで見かけたんだ。彼女はかの龍にあこがれを抱いていたらしく、週に一度はここに来てこの龍の目を見上げていたらしい。
信仰心というよりは好奇心になるのかな。俺と彼女は数分程雑談を交わし、別れた。
彼女は買い物を終わらせていたらしく、向こうの方へ歩いていった」
デュパンさんが指したのはシエスタちゃんの家とは反対側。海の方向でもない。
「あっちには何が?」
「誰が管理しているわけでもないのに咲き乱れた花畑、旧集会施設、後は森だな」
「その何処かで彼女は誘拐されたって事ですかね」
「俺もそう推理している……と、失礼」
鳴った電話を取って数回言葉を交わすとデュパンさんの表情が曇る。
「……片方? わかった、対処しよう」
電話をポケットに戻してわたしに視線を向けた。
「たった今、誘拐事件が起きた」
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