四人目の被害者は小さな少年。わたしとデュパンさんはその母親に話を聞いていた。

「あの子は川の方で友達と遊ぶと言って出ていきました。少ししてその友達があの子を迎えにきて……そこで私、ようやく気付いて……」

 母親の目から涙が落ちる。暗い雰囲気を察したのか抱き抱えられていた赤子が大きな声を上げて泣き喚く。

「すいません、辛い事を思いださせて」

「いえ……」

 明らかに落ち込む母親を見てデュパンさんは頭を掻く。

「あまり推測でモノを言いたくはないんだが……息子さんは死んじゃあいないと思うぜ?」

「……ほんとですか?」

「快楽殺人ならばこんな奥地まで来て、尚且つ連続で誘拐なんてしないだろう。それに誘拐した世代もバラバラ……まあこれは小人族の年齢の分かりにくさかもしれないけどな」

 ここで言葉を止めて、デュパンさんはわたしに視線を向ける。

「では何を目的とした誘拐か、君はどう考える?」

 わたしは考える。快楽殺人でないのならば何を必要としているのか。

 例えば労働力、つまりは奴隷として誘拐をしているというのはどうだろうか?

 あり得ない理由ではないが……違和感が残る。

 誘拐された人は年齢も性別もバラバラ、たまたま居た人をターゲットにしたようにも見える。

 それに被害者は生きているだろうと言っていた。もし奴隷として扱っていたなら、労働者として使えなかったならば、その時は……

「だから……いや、違うか」

 呟いて思考の方向を切り替える。

 如何なる年齢も性別も必要で、なおかつ被害者がぞんざいに扱われない、そんな誘拐は……

「人身売買……?」

「その通り。数日でこの人数、そこらのチンピラではなく組織……一度に一人だからその一部だろうさ」

「つまりある程度誘拐してから本元に戻ると言う事ですか?」

「だろうね。だから……大丈夫」

 デュパンさんはそれだけ母親に伝え、家を出た。


 *


 デュパンさんと別れ、シエスタちゃんの家へと戻る。

「ナイスタイミングです、智野。醤油を切らしたので村長さんに頂いてきます。シエスタちゃんを頼みますね」

「あ、はい。いってらっしゃい……」

 駆けていくコカナシさんを見送って扉を閉める。振り返るとシエスタちゃんが抱きついてくる。

「おかえりなさい!」

「ただいま……」

 思わずしゃがんで抱きしめ返す。

「わっ! ……トモ?」

「……頑張るからね」

「んー?」

 あの母親も泣いていた程の事件。それがこんな子供のシエスタちゃんならどれだけ辛いだろうか……

 絶対、絶対犯人を捕まえてみせる。わたしは探偵にはなれない、でもワトスンとして、助手として出来る事は多いはず。

「トモ、痛いよ」

「あ、ごめんね」

「ねえ、約束通りおはなし聞かせて!」

「いいよ。今日はどんなおはなしにしようかな……」

「お姫様のがいいな」

「じゃあ今日のお話はシンデレラ」

 二羽の鳥が舞い降りるグリムより、十二時の魔法がかかるペローにしよう。義姉の部分は削り取り、少し明るくアレンジしよう。

 こんな日には明るく、人間の闇が少ない物語が良いだろう。

 水を一杯飲んで咳払い。これは健気な少女が幸せになる物語。

「昔々、遠いところに小さな王国がありました……」

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