⑬
怪人から逃げる事約十分、どうやら追っては来ないようだ。
超速エンジン用の予備バッテリーが底を尽きたところで俺たちは一息つく。
「ここ……は」
目の前には大きな扉がある。一見なんの変哲も無いものだが……
「帰ってきた猫達が言ってたやつだよね?」
「だろうな、模様とかが完全に一致してる」
つまりこの先に下半身の無い幽霊が……
「よし、こっちには何も無かったから合流しようか!」
「いやいや、流石にここはダメだよ」
む、ダメだったか。
「じゃあ……開けるぞ」
*
「どぅわぁっはぁ!?」
開けた瞬間男がいた。尻餅をついて目の前に来た下半身は……
「石の塊?」
脳がその物体を理解する前に智野に肩を叩かれる。
「これ、胸像だよ」
「へ?」
見上げるとそこには言われた通りのもの。確かに少し見ただけならば下半身の無い幽霊に見えないこともない。つまり
「幽霊の 正体みたり 枯れ尾花……か?」
*
ニャルに質問攻めされたのかどこか疲れた様子のケイタ様と合流した。
「何かわかった?」
「一応、情報は」
行きはヨイヨイ帰りは怖いの逆といった感じか、帰りは何もなかったので胸像の事を話した。
「でも不思議だよね、わたしや隆也なら見間違えもわかるんですけど猫って暗くてもよく見えるはずだし」
夜目が聞くと言うやつだ。確かにそれは疑問である、何か混乱でもしていない限りはあまり起きない事だろう。
「それはわかると思う、こっちに重要なモノがあったから」
「重要なモノ? ……そういえばニャルは何処に?」
ケイタ様は珍しく苦笑いを浮かべた。
「その重要なモノを調べるって動かないんだ」
ケイタ様について行き、ニャルの所へ向かう。
俺たちとは逆方面、この廃墟の中を通る川に沿って歩いた最奥の部屋に重要なモノがあるらしい。
「じゃあ、開けるよ」
「……うわ」
部屋の中は木で埋まっていた。草ではなく木だ。
「いっぱい生えてますね」
「違うよ、これは一つの木」
「す、すごいね」
その入り組んだ幹の間からニャルが顔を出した。
「やっぱり予想通りだった! これが原因だよ!」
「ん? この木が?」
「ほら、葉っぱとかが川に浸かった上に流れてくる石で削られてるでしょ?」
指した方を見る。確かにニャルの言う通りだが……
「何かまずいのか? 毒があるようには見えないけど」
「毒というよりは薬かな? 少量なら」
「ねえニャルちゃん、この木ってなんの木なの?」
「日立の樹か?」
「え? 何その木」
「いや、何でもない」
モンキーポッドと言えば伝わるかもしれないがやめておいた。
やはり異世界だと通じない洒落もあるのだ。ああ、嘆かわしい。
話題を終わらせる合図のように咳払いをしてニャルは近くの葉を掴む。
「これはね、マタタビの木だよ」
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