続・マンドレイク大収穫祭

「えっと……」

 帰宅するなり先生は用事があると倉庫に行き、コカナシは買い物に出かけた。

 つまり、リビングにいるのは俺と智野のみである。

「智野、とりあえず説明する。あの銀髪の人は……」

「キミアさん、かな。あの可愛い子はコカナシさん」

「……ああ、誰かが呼んだのを聞いていたのか」

 納得しかけたところで智野がかぶりを振る。

「聞いていたの、数日前から」

「数日前?」

 智野が目覚めたのは今日のはずだ。だとすれば考えられるのは……

「もしかして解凍した後は意識があった?」

「うん、だからわたし自身の状態はわかっているつもり。でもわからないことが幾つかあるの」

 智野は少しだけ視線を逸らす。

「なんで隆也がわたしの裸を見たのか、とか」

「いや、ちょ! それは仕方のない事でだな!」

「……変態」

「まて! 今色々と説明するから! な!?」

 俺は誤解を解きながら、ゆっくりとこの世界の事について説明を始めた。


 *


「ん……朝か」

 カーテンの隙間から漏れる日差しに起こされた。

「あ、ようやく起きた」

「おはようございます」

 自室から出ると智野とコカナシが朝食の支度をしていた。

 智野が目覚めてから数週間が過ぎている。車椅子にも慣れ、今は家事の手伝いをしている。

 元々人間関係に淡白な先生はともかくコカナシは「妹が出来たようだ」と喜んでいた。

 俺の方は前と変わらず簡単な錬金薬をつくって先生の手伝いをしている。

 他の人から見れば大きく変わった事は無いだろう。それでも色々と変わった事がある。


 朝食を終えて自室に戻り、先生から借りた薬学書を開く。

「……せめて日本語、ネ語ならなぁ」

 もちろん書かれてる文字は俺の知るものではない。辞書を使って少しずつ翻訳していくしかない。

 本当は先生やコカナシに軽く訳して貰えばすぐなのだが……

「そうは、いかないよなぁ」

 ため息をつき、俺は数日前の事を思い返した。


 *


「先生、智野の事について話が」

「食費とかなら家事分をひいてお前の働きから取ってあるぞ」

「それは感謝してますけど……違う話です」

「……聞こう」

 先生と向き合い、その目を見つめる。

「智野の足を錬金術で治療する事は出来ますか?」

 先生は少し考えた後、口を開く。

「可能ではある。しかしお前では無理だ」

「何故ですか」

「難しさが段違いだ。現実的に考えられる最高素材でワタシが処置しても五割……いや、もしかしたら下回るかもしれない」

「え、でも植物状態に比べたら」

 足を一つ治すならばもっと簡単だと思うが……

「植物状態は自然に生活をしていて起こり得る現象だ。しかし今回のは冷凍保存によるもの。自然の中にない、人間が無理やり作り上げたモノによる症状というのは大抵難しいものだ」

「そう……ですか」

「ワタシは師としてその錬金を許可する事は出来ないし方法も教えない。わかったな」

「わかりました……」


 *


 と、いうわけだがすんなり諦めきれない俺は独学で足掻いているのだ。

「えっと、この単語は……」

 翻訳を進めているとインターホンが鳴り、コカナシの話し声が小さく聞こえた。

 何を話してるかまではわからない。

 誰だろうか?そんな事を考えていると勢いよく扉が開いた。

「マイフレンド! 元気にしてるかい!」

「アデルか、お前は元気そうだな」

「うむ、僕はいつも通り元気だ。しかし元気の無いモノがいるのだ!」

「ナディがどうかしたのか」

 アデルはかぶりを振る。

「ナディも元気そのものだ。元気がないのは人ではない」

 なにやらうねうねと謎のダンスをした後、キメ顔で口を開く。

「元気がないのは……そう、マンドレイクだ!」

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