「智野!」

 数年ぶりに目を開けた彼女を抱きしめる。

「ちょ、えっ」

「わかるか? 俺だ!」

 そう聞くと彼女は驚きから優しい笑みへと表情を変える。

「わかるよ。たか、御内隆也…….だよね」

「ああ……そうだ」

「感動の再会を見守ってやりたいが、ワタシとしては早々に診察をしたいのだが」

「あ……そうですよね」

 先生と入れ替わり智野に背を向けた瞬間、目から何かが溢れ落ちた。

 確かに、確かに顔は笑っているはずなのに……

「タカ」

 コカナシからハンカチを受け取り、拭き取ってから後ろを向く。

「人差し指を曲げて、伸ばして……それを全ての指で順番にやれ」

「こう……ですか?」

 先生の診察は頭から順に進んでいく。

「じゃあ最後は足、冷凍保存していたとはいえ立つのは少し難しいか……タカ、肩を貸してやれ」

「了解です」

 智野の肩に手を回し、少し力を入れてやる。

「ありがと……っと、あれ?」

「どうした?」

「なんだか左足の感覚が無いっていうか、指が動かしにくいの」

「……?」

 コカナシが持ってきた椅子に智野を座らせて左足を触る。

「いま触ってるけど、感覚は?」

「ない……よ」

 一時的な痺れかと思ったが、そうではなさそうだ。判断できないので先生と入れ替わる。

「感覚があるところで声を出せ……膝あたりが境目のようだな」

 先生は立ち上がり、部屋を出ようとして振り返る。

「シャーリィの所へ行く。コカナシは支度をしてくれ、タカは一緒に来い」

「え、でも俺は智野の側に……」

「なんだ? 恋人の着替えを間近で見たいのか、素直な奴め」

「え、ちょ、違っ」

 智野が不安だと思って……ああダメだ、コカナシも智野でさえもこちらを睨んでいる。

「……わかりました。行きます」


 *


「レントゲンの準備を頼む。ああ、一応全身がいい」

 受話器を置いた先生は俺に視線を向ける。

「先に言っておくが、お前は完璧に智野を治療したぞ」

「……え、でも現に智野は」

「ワタシが錬金術に、特に診察面に関して嘘をついた事があるか?」

「…………」

 他のことはともかく、錬金術ならば先生を全面的に信用できる。

「じゃあなんで智野の足は」

 その問いの途中で先生は口を開く

「触診と生命力を見ただけだから確信は無いが、恐らくはお前の世界の冷凍保存技術が完璧では無かったのだろう」

「…………」

 言葉を失っていると智野とコカナシがリビングに入ってきた。

 智野はなんとかコカナシのサポートで歩けてはいるが、一人で歩くならば手すりか松葉杖が必要だろう。

「倉庫の奥に車椅子が無かったか?」

「キミア様、あれはタイヤが壊れたから倉庫に押し込んだのですよ」

「そうだったか。タカ、背負ってやれ」

 智野をおぶって立ち上がる。ああ、彼女は変わっていない。

 てか数年ぶりの恋人とこの密着度は中々に毒じゃないか?

「隆也」

「どうした?」

「変態」

「なんで!?」


 *


「……そうですね、恐らくはキミアさんの予想通りでしょう。膝の辺りの解凍、もしくは凍結の時点で失敗していると思われます」

 数時間かけて検査をした後、シャーリィさんは資料を見て続ける。

「ただ、これは僕たちの知らない技術によるものですから診断書を出せるほど自信はありません。より専門的な所に紹介状を書きましょうか?」

 決めかねたのか智野が俺を見る。俺も判断できないので先生に視線を送る。

「国立病院ならそのうち行くぞ」

「ああ、それならその時で大丈夫ですね」

 シャーリィさんは視線を智野に変えて続けた。

「安心してください、今すぐどうこうなる症状ではありません」

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