幽霊監獄の流行病
①
「よく帰ったな、数日後に出かけるぞ!」
長旅の末にアルカロイドの家に帰ると先生が開口一番にそう言った。
「キミア、そうじゃないだろ」
アデルに突っ込まれて先生は咳ばらいをして言い直す。
「よくやったな。これでお前も金を稼げ……公式的に薬が作れるようになったな」
「……最初に出たのが本音ですね?」
「さあ、私なりにご馳走を用意してあるぞ。さっさと入れ!」
ごまかしやがった。あきらめて家に入ると同時にアデルに抱きしめられる。
「よくやった友よ! これで目標に一歩近づいたな!」
「うん、気持ちはうれしいけど暑苦しい」
「男同士の抱擁ってどうなんですかねー」
気持ち悪いと言いたげなコカナシは俺たちの横を通り過ぎてテーブルの料理を眺めた。
「これをキミア様が」
「キミアは全く手伝ってないわよ……コカナシちゃーん!」
椅子に座ろうとしたコカナシをセルロースさんが抱きしめる
「女同士の抱擁も良くはないかと……」
抵抗する気力すら失ったらしいコカナシは虚ろな目でため息をついた。
*
シャーリィさんが追加の料理を運んだりアデルが芸をしたり、皆での楽しい食事が終わった頃に先生がさっきの話を切り出した。
「数日後に出かけるぞ」
「どこに行くんですか?」
「イスカだ」
「…………」
さっぱりわからん。
「イスカンデレイア、錬金術発祥の地でキミア様の故郷です」
「電車ですか?」
「途中までは電車を使うが最終的には歩くことになるだろうな」
うわ、行きたくない。
「何しにいくんですか、そんな山奥」
「生徒を取った報告にな、最近顔を出していなかったし」
「報告……ですか」
「ああ、ボル様とケイタにな」
「王か何かですか?」
「錬金術の神様ですね」
「……は?」
パスタを口いっぱいに含んでいたコカナシはソレを飲み込んでからもう一度言い直す
「はい、神様です」
先生の方を見ると頷かれた。
コカナシはともかく先生は神様とかそういうのを信じないひとだと思っていたけれど……
「ホントにいるんだぞ?」
真剣な顔で言う先生……本当に?
「信じていない顔だな……まあ神様と言っても元々は人間だ、お前が思っているほど遠い存在ではない」
「要は力を持つ人間が信仰対象になっているというだけですか?」
「若干違うが……それは向こうに着いたら説明しよう」
俺は今までの話を頭の中で整理して結論を吐き出す
「つまりその神様は錬金術に関する何かの力を持っているって事ですね」
「そうだ。ボル様とケイタは錬金史で最高の才能を持つ……異世界から来た者だ」
「…………え?」
異世界から来た人。その言葉に俺の頭は真っ白になった。
*
「異世界からって……俺たち以外にもいるんですか!」
そんな話誰からも聞いた事ないぞ。
「錬金術に携わる者なら聞いた事はある話だろう。信じるかは別にして、な」
「ってことは錬金術に関係が?」
「そうだな。未開錬金術の一つだ」
「……なんすかそれ」
未開錬金術? またまた聞いた事もない。
「その錬金が可能なことは分かっているが方法が分からない錬金術だな」
「…………?」
俺が理解していないのを理解したらしい先生は少し考えてから言い直す。
「光の速さを超えれば時を越えることは分かっているが光の速さを超える方法は分からないって感じだ」
「ああ……なるほど」
少し違うが机上論って事か。
「錬金中の何かが異常反応を起こして異世界に繋がる何かを作り出す。そういうものだ」
「つまりその神様も錬金術の力で俺と同じようにこの世界に来たってことですか」
「まあそうなる。だからワタシもコカナシもお前の言うことを信じたんだ」
確かに二人とも少し疑いながらもすぐに受け入れてくれていた。それに対してアデルは俺の事を遠くの場所から来た人とでも思っているようだ。
「やあキミア! イスカに行くんだって?」
扉が勢いよく開かれてアデルが入ってきた。いつも急なんだよなぁ……
「……それがどうかしたか?」
「僕も途中まで同行しよう!」
「アデルも出かけるのか?」
俺が質問を投げるとアデルは食い気味に打ち返してきた。
「そうとも! 新商品の開拓さ!」
「それって大丈夫なのか?」
アデルの店はアルカロイド唯一の雑貨屋だ。元の世界で言う田舎のスーパー的存在だ。
食料品は他で賄えるとしても……日用品が無くなるのは厳しい気がする。
「店の事なら安心したまえ。ボブに任せてある」
「え? あいつが店番を?」
ボブと言うのは俺たちの友人で食事好きの典型的なデブである。極力動かないのを信条としている奴なのだが……
「新商品の中に甘味があると伝えたら快く了承してくれた。監視にセルロースをつけたから安心だ」
「ああ、それなら問題なさそうだな」
この件は終了。俺は先生の方を見る。
「ま、荷物持ちが増えていいんじゃないか?」
「僕はそんな扱いなのかい!?」
ぎゃあぎゃあ言い合う二人をよそに俺は紅茶をすする。
そっか……俺が荷物持ちなのは確定していたかぁ……
*
イスカまでは相当日数がかかるらしく車内で泊まる事も途中下車で泊まる事もあった。どうやら新幹線とかは無いらしくバスや電車を使って俺たちは移動していた。
そんな小旅行が数日続いた車内でアデルが弁当を食べながらつぶやいた。
「僕はもうすぐお別れとなるな」
「へぇ」
「そうですか」
「あ、そう」
「なんだその興味の無さは!」
アデルがそこそこの声で突っ込んだ瞬間、電車が急停車をした。
「アデルが大声を出すからですよ、どうにかしてください」
「そんなわけないだろう」
車内のスピーカーが少しノイズを発した後、車掌の声を伝えてきた。
『線路故障による前方車両停車の影響で、全線緊急停車をしております。復旧の目途はたっておらず……』
「……らしいですよ? どうします?」
「幸いにもまだ午前中だ。ここから歩けば次の街には行けるだろう」
先生の目線による問いかけにコカナシが地図を広げる。
「確かに今日中には着けますが……山もあって結構複雑ですよ?」
「イスカに向けての練習にもなる。ここら辺の植物も見ておきたいしな」
「先生、珍しく動くんですね」
「動くのと待つのでは待つ方が嫌いだからな。それに線路が故障したのなら今日中には復旧しないだろう」
「その点では僕も賛成だ。大きな荷物はこのまま載せて駅のロッカーにでも入れといてもらおう」
「そんなことできるのか?」
「次の街の駅に知り合いがいる。それくらいは何とかさせるさ」
なんだこの有能アデルは……らしくもない。
「ではいきましょうか」
コカナシが立ち上がるのを見て俺たちも電車を出ることにした。大丈夫かな……これ。
*
「大きな壁だね」
休みながら歩くこと数時間。俺の心配は見事的中……つまりは迷った末に変なところにたどり着いた。
「地図上は……どこでしょうね?」
「迷ってるんだからわかないだろ」
方向音痴のコカナシ。再来である。
「アデル。お前さっきの知り合いとやらに連絡して道を聞け」
「うむ。そうしたいのは山々なんだけどね」
アデルはペロッと舌を出す。
「置いてきた荷物に入れっぱなしのようだ」
「使えないな……仕方ない、とりあえずここに入るか」
「でも先生。ここの入り口って……」
見つからない。数十メートルはありそうな壁に囲まれたこの場所の入り口が見当もつかないのだ。
「しかしここに入らないと野宿になるぞ?」
「確かにそれはいやですけど……」
寝袋とかもないし。
「と、言うことでこれは仕方のないことだ」
そう言いながら先生はビーカーを取り出した。
「そうですね、仕方のないことです」
コカナシは持っていたバックから幾つかの植物とか硫黄の粉とかを取り出し始める。
「アデル、ストックボックスに火は入っているか?」
「もちろんだとも。この僕のアイデンティティだからね」
「上出来だ。じゃあ、始めるか」
そう言って錬金を始める先生。……いったい何を?
今度こそ大丈夫か……これ。
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