⑥
先生がどこに言ったか、そんなコカナシの質問に俺は答える。
「……正直に言う。見当もつかない」
半分嘘だ。場所は知らないがそれを知る……知れる方法は知っている。
先生の言う通りにするならばここでコカナシと待機すべきだろう。しかし……
「さすがに心配だな」
「はい、探しに行きましょう」
「いや、コカナシは残ってて」
「え……私ですか」
こういう時片方が残るのは普通の考えだろう。問題はどちらが残るかだが……先生とセルロースさんの電話の内容から考えるとコカナシを残した方がいいだろう。俺はそう考えたのだ。
しかしそれをコカナシに伝えるわけにはいかない。
「どこにいるかまったくわからない。なら背の高い俺の方が少し有利だろ?」
「そう……ですかね」
「それに先生が帰ってきたときご飯がなかったら先生は不機嫌になると思う。俺はちゃんとした料理を作れないしな」
「自信満々に言われても困りますね」
ずっと険しかったコカナシの表情が少しゆるむ。
「わかりました。タカに任せます」
「おう、行ってくる」
念のため採取用のバックを背負う。
「あ、タカ」
玄関の扉を開けようするとコカナシが錬金セットをもってかけてきた。
「念のためこれを」
「いや、まだ一人じゃ怪しいし……」
「キミア様は身体能力がいい方ではありませんから……もしかしたら町の外に出て獣に襲われているのかもしれません」
「なるほど」
「キミア様の補助があればタカはできるはずです。応急処置用の薬草も幾つか入れておきました……考えていると不安になってきました。早く行ってください」
さっきは呼び止められたコカナシに背中を押されて家を出る。とりあえずは情報収集だ。
コカナシが知らないってことはセルロースさんもしらないだろう。と、なれば……
「とりあえずはあそこだな」
俺は小さく呟いて家とは逆方向の町のはずれに向かった。
*
思ったよりも辺りが暗くなっている、早く先生を探さなければ。そんな事を考えながら早足で歩く。
十分ほど歩いた先に見えたのはここらへんでは大きい部類に入るであろう一軒家。一人で住むには大きすぎるくらいだが元々は職場も兼ねていたのだから相応だろう。
前まであった俺には読めない文字で書かれた看板は外され、代わりに休業の張り紙がしてある。
「すいませーん」
呼び鈴の無い扉を数回叩くと中からこちらをうかがうような気配がした。
「俺です。隆也です」
「ああ、タカヤくんか」
扉を開けたシャーリィさんは俺を中に入れ、キッチンの方に向かう。
「お茶にアレルギーとかはなかったよね」
「あ、はい」
あまりに自然な動作だったので答えた後に気が付く。お茶を飲みながら談笑をしに来たわけではないのだ。
「シャーリィさん、ちょっと急ぎの用で……」
「わかっていますよ」
シャーリィさんが少し小さめのカップを俺の目の前に置く。
「とりあえずこれを飲んでください。飲みやすくしてあります」
しょうがないのでお茶が入ったカップを手に取る。
カップはほんのり温かいが湯気はほとんど立っていない。飲みやすくとはこういうことか。俺は一気にお茶をあおる。
「……?」
いつも出してくれるお茶とは若干違う味がした。少しだけ柑橘系の味がして甘いような……
「オレンジブロッサムを主体としたハーブティーです。気持ちを落ち着かせ、血流をよくする効果があります……少しはおちつきましたか?」
向かいに座ったシャーリィさんがそう言ってお茶を少しすする。いつの間にか焦りばかりが先行していたかもしれない。
「で、どうしたんですか?」
「実は先生が……」
俺は今までの経緯を話す。
「なるほど、僕との会話の後にですか。じゃあ……」
「はい、その会話の内容を聞きたくて」
「僕との会話が発端なのだとしたらキミアさんはこの先の森にいったのだと思うよ」
「森、ですか」
シャーリィさんは頷いて言葉を続ける。
「昨日植物を採取しに森の方に行ったのだけどね、その時奥の方から光が放たれているのを見つけたんだ」
「街灯の異常かなにかですか?」
「いや、あれは普通の光じゃなかった。たぶん錬金術の時に出る光だと思うんだ」
体力や生命力が一時的に可視化したものだろう。
「普通のソレなら僕は気づきもしなかったんだろうけど……かなり強い光でね。たぶん錬金薬学の類じゃなくて純粋な錬金術のモノ。もしかしたらキミアさんがやっていたのかと思って聞いてみたんだ」
純粋な錬金術。ならばそれは生命力を消費するものになる。しかし先生はそんな錬金術をしない主義だ。
だとしたら錬金したのは先生じゃないわけで……先生はその錬金術師を探しに行ったのか?
俺はここで思考を止める。それは先生を見つけてから聞けばいいことだ。
「ありがとうございます。少し森の方に行ってみます」
「僕は町の方で情報収集をしてみるよ。何かあったら連絡する」
「はい……って連絡?」
「鳥を使った方法がある」
シャーリィさんが指笛を鳴らすと奥の部屋から鳥が飛んできた。
「このミズナギトリは訓練されていて伝書バトのように使えるんだ」
「え? でも伝書バトって家に帰る習性を利用したものじゃ」
「ミズナギトリは嗅覚が鋭い。だから……」
シャーリィさんがカプセルのような丸いものを渡してきた
「これを開けると独特な……さっきのハーブティーと同じ匂いが広がります。幾つか渡しておくので十五分置き位に開いてください」
「わかりました」
「あと、ついでにこれを」
数個のカプセルと共に水筒を渡される。
「またまたこれにもさっきのハーブティーが入っています」
「ありがとうございます」
水筒とカプセルをバッグに入れ、俺はシャーリィさんの家を出て森へと向かった。
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