④
「と、いうわけなんだけど……どう思う?」
「黙ってろ」
セルロースさんの治療をしながら先生がため息をつく。
その目線の先にあるのはところどころ焦げている例の獣だ。
あの後セルロースさんが今後の為にと獣の死体を持ち帰ることを提案し、俺とアデルが運んできたのだ。
「コカナシは見たことあるか?」
コカナシは獣をじっと見つめる。
「これと同じものは見たことありませんが……」
セルロースさんの治療を終えた先生がコカナシの視線に頷く。
「ああ、キメラだろうな」
「キメラってあのヴィクターのキメラですか?」
「ドク……ミスターシャーリィは知っているのか?」
シャーリィさんは先生の本棚から一冊の厚い本を取り出して開いた。
「キメラは錬金術師ヴィクターが編み出した錬金術、別名『合成動物』です」
「合成動物……」
あの獣を見たあとならばその言葉だけで大体理解できる。
「違う種類の生物を錬金術で混ぜ合わせるってことですよね」
「動物だけではないですよ」
シャーリィさんがもっていた本をコカナシが開く。
「ヴィクターが最初に成功したのはマンドレイクとマウスのキメラだったそうです。ベースとするのを動物以外にしてしまうと込める生命力に耐え切れず失敗する……らしいです」
「ならばこの獣は狼とカラスのキメラって事か?」
アデルの言葉に先生が例の獣を見ながら訂正する
「そこにシナヒガンバナが入るな」
「三つっていうのは難しいんですか?」
俺の質問に先生は首を振る
「初心者にとっては難しいがある程度錬金をやっているやつなら簡単にできる。三つといっても一つは植物だしな」
どうやら動物より植物の方が難易度は低いらしい。
「じゃあ、あたしが受けたのは獣自身からでた毒だったわけね」
「ああ……そうだ、キメラよりそっちについて話をしなければ」
思い出したように手を叩いて先生は俺の方を向く
「タカ、お前錬金に成功したらしいな」
「え、あ、はい」
「やってみろ」
「……え?」
「今の体力なら一回くらい錬金したって問題ない、見てやる」
そういいながら先生とコカナシが錬金室に行って錬金の準備を始めている。凄まじく断りたいのだが……無駄だろうな。俺は大人しく錬金衣装に着替える。
目の前に並べられた素材はハチダイコンとマンドレイク。喉の調子を整える基礎的な薬の素材だ。
「下ごしらえは終わっている、私のやさしさに感謝しろ」
その優しさがあるのならいきなり行動するのをやめてほしいのだが……これもまた言っても無駄だ。
「始めます」
俺が言うと先生を含む全員が数歩下がる。爆発しねぇよ。
下処理をして錬金石をかざし、錬金が始まる。
分解した素材を体力で強化して結合していく。ここまではいつもできていた。
あの時掴んだ感覚を思い出す。錬金を外からではなく内から見ているようなあの感覚を……
「……きた」
思わずでたその呟きが耳に返ってこない程錬金に入り込む。
「タカ! 帰ってこい!」
何度も聞いたその怒鳴り声に引っ張られて錬金を外から見る。ビーカーから凄まじい光があふれ出している。
「す、少なく……少なく」
調整しながら思い出す。そうだ、歌だ!
ご飯の歌を呟きながらなんとか光を調整する。
「……できました」
先生にできた薬を渡す。
「できたじゃないだろう! 抜けられないなら錬金に入り込むな!」
部屋内に先生の声が響き渡る。
「内から錬金を見るというのは間違っていないが入り込みすぎだ!」
ほかの皆はいつの間にか違う部屋に逃げたらしく。先生の怒号が数十分続いた後、先生が咳払いをして俺が作った薬を手に取る。
「一応薬は完成している。内から見るというのは間違いではない」
「じゃあ誰かに注意して貰いながら練習……ですか?」
「いや、内から見るというのは錬金術的には間違っていないが錬金薬学的にはやりすぎだな」
「……え?」
「錬金薬学は錬金術を応用したものに過ぎない。もう少し気楽に考えていい」
普通の錬金薬学師ならそれでいい、でも……
「俺は最終的に錬金術を目指してるので必要なんじゃ」
「それはもう少し上達してからだ。外から見る錬金に慣れれば内から出やすくもなるはずだ。急ぎすぎるな」
「あ……はい」
また焦ってしまっていたようだ。俺の悪い癖だな。
「コカナシにも言われました。焦る必要はないって」
先生はため息をついて少し優しい顔になる。
「体力の調整は上手くなっていた。今まで通りの練習をしていればすぐにできる」
先生はそう言って部屋から出て行った。
ふと見た机の上には素材が少し余っている。
「もう一回、やってみるか」
俺は脱ぎ掛けた錬金衣装をまた羽織った。
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