妖精とゴーレム
@HooHoo
妖精たちは『ありがとう』の心地よさを知った。
あるところに、畑に暮らしていたひとりの妖精が住んでいました。
畑の妖精はありあまるほどの畑の作物を食べて毎日のんびり過ごしていましたが、ほかになにもない日々に退屈していました。
ある日、肥料となる材料を集めに森へ向かった畑の妖精は、行き倒れているもうひとりの妖精を見つけました。
初めて同じ仲間に出会えたことに喜ぶ畑の妖精ですが、倒れている妖精がとても苦しそうな様子だったので、大急ぎで家へと連れて帰りました。
家に戻った畑の妖精が野菜や果物を食べさせてみると、暗く沈んでいたその妖精の顔は明るさを取り戻し、みるみるうちに元気になりました。
助けた妖精は、器用な手先を活かして物を作るのが得意な工作の妖精でしたが、食糧集めは大の苦手で、底をついた食糧を探しに狩りをしていた途中でおなかをすかせて倒れてしまったのでした。
かわいそうに思った畑の妖精は、ひとりでは食べきれなかったたくさんの作物を工作の妖精に分けてあげることにしました。
工作の妖精は大変喜んで、感謝の気持ちを伝えました。
「ありがとう」
その言葉を受け取ると、畑の妖精はなんだか嬉しくなって、不思議とどこからか元気がわいたように感じました。
ふと畑の妖精が工作の妖精を見ると、その背中には大きな熊手を背負っていました。
試しに作ってみたものの、潮干狩りしようにも近くに海がなくて、何に使おうか困っていたところだと工作の妖精は言いました。
熊手の使い道について、畑の妖精も一緒に考えてみました。すると、柄の部分を長くすれば畑を耕すのに使えるのではないか、ということを思いつきました。
工作の妖精は熊手の柄を、その場で作った長いものに付け替えて、畑の妖精に手渡しました。
畑の妖精がそれを使って畑を耕してみると、いつもより早く、楽に耕せているのが手に取るようにわかりました。
慣れていたとはいえ、大変な作業だった畑仕事がこれだけでずいぶん楽になりました。
食べ物を分けてくれたお礼に、工作の妖精は畑仕事に使える道具を作り、それを畑の妖精に贈ることを約束しました。
「ありがとう」
工作の妖精から受けたものと同じ言葉を畑の妖精が伝えると、工作の妖精もまた嬉しい気持ちでいっぱいになりました。
『ありがとう』――なにげないそのひとことをかけあった二人の間には、なんとなくですが、どこか心が通じ合えたという気持ちが芽生えていました。
それからというもの、二人の妖精は毎日のように仲良く過ごしました。
工作の妖精の作った便利な道具で畑の妖精が農作業に励み、できた作物を二人で仲良く一緒に食べる。おいしい作物を食べて元気をもらった工作の妖精がもっと便利な道具を作る――
同じことの繰り返しのようで、少しずつ良い方向へ変わっていく毎日を、二人はこの上なく幸せに過ごしていました。
やがて農作業の設備も一通り整い、すっかり立派になった畑を見て、ようやく仕事の手が空いた二人の妖精は思いました。
世界には自分たちのほかにもたくさんの妖精がいる。今まで二人が協力してきたように、もっと妖精たちが一緒になって力を合わせれば、それだけたくさんの『ありがとう』であふれかえり、世の中が幸せでいっぱいになるんじゃないか、と。
畑の妖精と工作の妖精は、ここに妖精の町を作り、世界中の妖精が住まう大きな町にしようと決意しました。
まだ見たことのない妖精たちにこのことを伝えるため、二人は考えられる限りの方法で手紙を広めました。
風船、綿胞子、渡り鳥――空を飛ぶいろいろなものにくくりつけたその手紙には
「食糧と道具をあげる代わりに町づくりに力を貸してほしい」
という内容が書かれていました。
たくさんの手紙を書き続けて月日が流れ、もう誰も来ないかもと二人が思い始めたころ、手紙を見てやってきた新たな妖精が町にたどり着きました。
初めての来訪者を、町を代表して二人は温かく迎え入れ、おいしい作物と生活に必要な家や道具の数々、そして、その妖精にしかできない町づくりの役割を与えました。
慣れない土地での新しい生活、新しい仕事に最初は戸惑うばかりの妖精でしたが、畑の妖精のくれる食べ物はとてもおいしく、工作の妖精の用意する道具は大いに役立つものばかりだったので、この町でがんばってみようという気持ちが芽生えるのに時間はかかりませんでした。
それから時が過ぎ、その後も一人、また一人と妖精が町を訪れ、ほんの少しずつですが町づくりの仲間は増え続け、それに合わせるように、ほんの少しずつですが町も大きく成長し豊かになっていきました。
まだまだ立派とはいえないながらも、最初の二人しかいなかったころと比べると、妖精の町はずいぶん大きくなりました。
町が大きくなるにつれて、その噂は町の外のより遠くへと広まっていきました。そして町に人が集まったことで、集まった知恵と労力で世界中に町の存在を伝える手段には困らなくなりました。
こうして、妖精の町は世界中に知れ渡り、瞬く間に各地から数多くの妖精が町へと集まっていくのですが――
畑の妖精は困りました。
世界中から妖精が集まるのはもとからの夢でもあり大歓迎なのですが、その人数があまりにも多く、受け入れる準備が間に合わないことに大いに悩んでいました。
新しい住民には食糧や生活に必要なものを渡す決まりですが、食糧も、家も、何もかもが足りず、全員分用意するには時間と手間がどうしてもかかってしまいます。町も大きくなったとはいっても、それ以上に来訪者が多すぎて、まだまだ十分ではありません。
食糧については特に大変です。畑を大きくしようにも、作物を育てるための人手がどうしても足りないので、どうしようもありません。
新しく来た妖精たちに手伝わせるにしても、妖精にも得意不得意があるので簡単にはいきません。
せめて人手だけでもなんとかなればと思い、町の妖精たちが集まって三日三晩話し合いました。
その中には工作の妖精もいましたが、作業に役立つ道具はすでに発明しつくしていて、今は足りない道具作りに追われてヘトヘトです。
意見を求められても、工作の妖精は困り果てるばかりです。
今一番足りないのは作業にかかれる妖精の数ですが、いくら工作の妖精にも妖精そのものは作れません。
たとえ妖精の数が足りていても、すべての新しい妖精を受け入れられるよう準備ができるまで、どれぐらい月日がかかるかわかりません。
と、そこで工作の妖精はひらめきました。
妖精は作れなくても、もっとすごい働き手ならもしかしたら作れるかも、と。
妖精の町は、工作の妖精を中心に、ある大発明に取りかかりました。
その名は『ゴーレム』。
すぐ作れ、すぐ直せ、何百年でも動き続け、びくともしない頑丈な体。
あらゆる知識や技術、ルールやマナーを全て記憶し、理解し、正しく活用できる頭脳。
どんなに力のかかる作業も、どんなに細かい作業も、どんなにたくさんの作業でも正しくやってのける器用さ。
そんなゴーレムが作られれば、妖精たちの手に余ることでも、きっとやり遂げてくれるでしょう。
ゴーレムは人手の足りない妖精の仕事を手伝うために作られ、町中の知恵と努力を集め、ついに完成しました。
さまざまな仕事場に送られたたくさんのゴーレムが休むことなく働いてくれたおかげで、外から来た妖精たちをすぐに受け入れることができ、町は今までとは比べ物にならない速さで成長していきました。
時が過ぎ、妖精の町はいつしか国と呼ばれるようになりました。
町のリーダーだった畑の妖精は国王として、世界中の妖精が集まるこの場所を見守っていました。
けれど、その表情はどこか暗いものがありました。
『ありがとう』
工作の妖精を助けたときに伝えられた、そして工作の妖精に農具を作ってもらったときに自ら伝えた、あの言葉。
あの言葉から感じられた温かさを、畑の妖精は今でも昨日のことのように憶えていました。
世界中の妖精たちが力を合わせて助け合うことで、その『ありがとう』に満ちた幸せな世界を作る――そのために作ったこの町も、今では国として立派に発展しました。
けれども、町だったころほどの活気は、この国には見られませんでした。
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