ルート

もん

第1話 就職活動

 大学4年、3月に就職活動が始まった。どちらかと言えば、私は就職活動に対してやる気が無い方だったと思う。私には就職して叶えたい夢や、職種に対する強い希望が無かった。私にとって大切だった事をあげるなら、会社の雰囲気や人が自分に合うかどうか、職場が家から近いという事ぐらいだろうか。あと、完全週休二日制で18時に上がれて残業がなるべく無ければ、より嬉しいぐらい。

 集団面接は苦手だった。周りを伺いながら自分を良く見せなければいけないから。

 「1分間で自己PRをして下さい。左の方から順番にお願いします。」

 順番に審査された自己PRはボロボロだった。話している間に既にもう駄目だという事が分かった。そして案の定そう思った会社からはお祈りのメールが届いた。

 その代わり、個人面接は得意だった。というのも、自分にしか注目がいかない場であれば、その場を自分のフィールドにするのは楽な事だからだ。


 「夏川さんは本当に笑顔が素敵ですね。」

 衣料品のチェーンストアの会社を受けた時、人事の人がそう言ってくれた。大学1年の頃からずっと接客業をやっているので、笑顔には自信があった。むしろ言えば、笑顔と愛嬌こそが私の長所であるとすら思っていた。

 そこの会社とは相性が良く、選考もポンポンと進み、最終面接を迎えた。最終面接を終えた後、外に出ると人事の人が微笑んでいた。

 「部屋の外まで笑い声が聞こえる最終面接、初めてですよ!」

 これが褒められているのかそうでないのかはよく分からなかったが、結果的にそこの会社から内定がもらえたので良かった様だ。内定は嬉しかったが、私はまだ就職活動を続ける事にした。というのも、この会社には転勤があったからだ。この事実に気づいたのは最終面接の時だった。さすがに自分でも、就活をなめてるのか?と思った。


 次に受けたのは病院の受付の仕事だった。そこの会社は転勤が無かった。そこまで近い訳でも無かったし、休みが少ないのもあまり好きではなかったが、そこの街並みがとても魅力的だった。説明会も明るい雰囲気だったし良いかも♪と思い、選考を受ける事にした。

 その選考こそが地獄だった。一泊二日で自分自身と向き合おうという訳の分からない一次選考を受けなければいけなかったのだ。一緒に選考を受けた子達は気が合わない訳ではなかったし、社員の皆さんも明るい人ばかりだったが、社員が揃って「院長に救われた」「院長が真っ暗だった私の人生に光を射してくれた」という様にやたらと院長を崇拝している事と、人事が選考などの連絡をする為に教えた電話番号からLINEを検索してLINEで連絡を取ってくる事と、その人事のLINEのプロフィール画像がサングラスをかけて海でウェーイとやっている写真で明らかに私用だった事だけが気にかかった。

 一つ気になると色々と気になっていってしまい、自分の過去や未来の事を話すプレゼンもよく分からなければ、そのプレゼンの練習中に「上手くいかない、私が話したい事はこんなちっぽけな事じゃない」と言って泣き出す就活生、それに対して「大丈夫、あなたなら絶対出来るから!」と言って一緒に泣き出す就活生。みんながぽろぽろと涙を流しながら熱い思いを語り合う中、私は一人カラッカラの瞳で思っていた。(洗脳されている・・・)と。

 それが伝わったらしく案の定そこの会社の選考は落ちた。

 サングラスでウェーイしている人事から電話で、「雪ちゃんならどこの会社でもやっていけるよ!」と言われた時「ありがとうございます♪」と答えながらも(知ってるよウェーイ)と思っていた。更に「就活中にさ、困った事あったらいつでも相談してね?雪ちゃんがどこの会社に勤める事になったかとかも知りたいし」と言ってきた為一応「わあ!嬉しいです!是非相談に乗ってください!」と返答したが心の中では(誰がするかウェーイバーカ)と思っていた。


 そして、次に受けた会社で、私は就職活動を終える事となった。

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