スキル・シードH×G
天上人
第壱章 聖なる咎人の再臨
第一話 Prologue
目を開ければ、そこには真っ白な空間が広がっていた。天井なんてものはない。まるでどこまでも広がる大空のように、俺の視界を白が覆い尽くしていた。
上半身を起こして周りを見る。やはり同様に、どこまでも真っ白な空間が広がっていた。地平線すらもなく、ただただ何処までも真っ白に。
「へ?」
あまりの状況に、素っ頓狂な声をあげてしまった。それが当然の反応だろう。
──俺は何故こんなところにいる?
確か昨日は普通に朝起きて高校に行って、それから…………何だろう、その先から思い出せない。
「おはよう、かな?」
「うひょっ!?」
唐突な背後からの声に、俺はひどく動揺する。早まる鼓動を抑えつつ、重たい首を動かして後ろを振り向くと、そこには一人の少女がいた。慌てて立ち上がり、彼女と対面する。
「どうも、
その少女は見た目からして十代半ばだろうか。幼さの残る顔立ちではあるが、その容姿はテレビでよく見るアイドルとは比べものにならないほど可愛い。そして胸もでかい。うん、ものすごくドストライクだった。
「君は向こうの世界、地球だったかな?そこで死んでしまったんだよ。不慮の事故でね。だけど、ただ死んだわけじゃないでしょ?」
顔は小さく、しかし全てのパーツが完璧とも取れる位置にある。まるで人形のような、いやそれすらも超えたある意味神がかった可愛さというのだろうか。おや後光も見え始めたぞ。
「君は死ぬ間際に一人の女性を救ったよね。その娘、実際は助けなくてもまだ生きていたんだ。寿命も五十年以上あったしね」
全体的に見てバランスが良いと言うか、締まるところは締まって出るところはちゃんと出ている。髪はさらさらの金髪で首辺りまで伸びており、前髪に隠れるようにくりくりとした二つの碧眼が、こちらを覗いている。
「神である私も聞いた時はびっくりしちゃったよ。だってあんな形で自分の死の運命を変えちゃうんだからね、あっちの神も同じ様な反応だったし。死の運命ってこう、実際には私達神でさえも覆すことの出来ないものだから。互いに交わらず、遮ることもなく、ましてや自らの意志によって断ち切れるものでもないからね」
白のワンピースから出た肌はまるで陶磁器のような滑らかさで、透き通るような肌の白さは周りの真っ白な空間も相まってか、実に儚く見えてしまう。手足は触れれば折れてしまいそうなほど華奢で、しかし痩せすぎているとも言えない。何とも絶妙な体型だった。
「ちょっと聞いてる!?」
「あぇ!?な、なんだったっけ?」
「やっぱり……聞いてなかったんだ……」
唐突に声量が小さくなった少女。さっきまでの迫力はなんだったのか。今では瞳を潤ませてワンピースの袖をギュッと握っている。
「ご、ごめん!別に悪気があったわけじゃ!」
「ワタシカミサマ。キミシンダオドロキ。以上」
「だからごめんって!次からは真面目に聞くからさ!」
この少女に見とれていたから、なんてのは口が裂けても言えない。顔には出てるかもしれないけど。そんな俺を神と名乗る少女はジト目で見てきた。
「つまり君は無駄死にしたってこと。でもそんな事で呼んだんじゃないの。君の死の運命をねじ曲げた事について少し興味が沸いてね。あっちの神に頼んで君をここまで連れてきてもらったんだ」
「死の運命をねじ曲げた?ああ、あのトラックから助けた時の」
「そう、トラックに轢かれそうになった女性を身を呈して守ったんだよね。代わりに君が死んでしまったけど、本当は死ぬべきじゃなかったって。さっきも言ったけど」
ま、まだ怒ってらっしゃる!案外神様ってのは根に持つタイプなんだろうか。
「そこで一つお願いがあってね。ある世界を救って欲しいんだ」
「世界を……救う?」
普段、絶対に日常では耳にしない言葉を聞き、疑問系で答えてしまう。少女から出た言葉があまりにも壮大過ぎて、あまりにも現実からかけ離れ過ぎていて、本当は鼻で笑うところだったけど、そうじゃない。
俺が今いるこの空間こそが非日常なのだ。この状況も含めて、受け入れる他ないのだろう。
「今私の世界で大変な事が起きてるの。私以外の少数の神達がいたずらに、人間に特別な能力を授けてね。Gスキルって言うんだけど、その力のせいで世界のパワーバランスが崩れかかってるんだ」
「え、スキル?それってゲームによく出てくるやつじゃ……」
「そう、君達の世界で言うゲームに私の世界はかなり似てるんだ、面白いほどにね。世界の名前はイーシェル。君には今からそこに行って欲しい。もちろんタダで行かせるわけじゃないよ?ちゃんと私の恩恵も授けてあげる」
「マジかよ……」
信じられないの一言に尽きる。まさかこれ自体が全て夢なのか、とも疑ってしまった。
確かに生前は馬鹿みたいにゲームをしていたし、世にいうオタクの類に入っていたかもしれない。実際何度もゲームの世界に行きたいと思ったし、行ければ楽しいだろうとも思っていた。
まさかそれがこんな形で叶うとは。
「あ、でも親は心配しないかな?」
不意に頭をよぎった両親の顔に、すぐさま冷静になる。俺が突然消えてしまえば両親はおろか、通っていた高校の人達も心配するだろう。
しかしそんな俺の考えを、少女は一蹴する。
「何言ってるの。君は死んだんだよ?心配も何も、君が死んだことの悲しみで消えてるよ」
「そうだよな。俺、死んだんだよな」
それだけは間違いなかった。冷静になった今なら容易く思い出せる。間近に迫ったあのトラックの姿も、全身を襲った耐え難い激痛も。
「思い残すことがあるのは分かるけど、こればかりはどうしようもないの。だからせめて、別の世界で生きてほしい」
「ついでに世界も救えと?」
「ふふっ、そういうことっ」
少女はくすりと微笑む。その笑顔はまるで万人を魅了する女神のような可愛さだった。
「君は……いや、えっと……名前はなんだっけ?」
「私の名はイーリスよ。イーシェルを創造した双神の一人」
胸に手を当て、自慢するように“創造した”を強調する少女。
「イーリスが直接問題を解消する事は出来ないのか?」
「残念ながら神が世界に行くことは出来ないの……条件下での干渉は出来るけどね。だから他の神達も能力の譲渡という遠まわしなやり方で世界をめちゃくちゃにしようとしてる」
「そういうことか」
何だか思ってた以上に事態は最悪のようだ。人間に神の力を授けるなんて、全くどうなるのか想像ができない。
「じゃあ、イーシェルを頼んだよ?あっちは地球に限り無く似せて創ってあるから、多分すぐ馴染めると思う」
「ああ、出来る限りのことはやるつもりだ」
「ふふっ、君とは短い間だったけど、話せて楽しかったよ。やっぱり想像通りの人間だった。何度もしつこいかもしれないけど、イーシェルを任せたよ?」
俺がその言葉に頷くと、彼女は瞳を閉じて何やら呟き始める。呼応するように足元から光が発せられた。
「これは……!」
足元の光源は魔法陣だった。一目見ただけでもわかる、複雑な幾何学模様と不思議な光の粒子。幻想的な光景に、俺は言葉を忘れる。
「私の能力も譲渡しておくから、イーシェルで存分に使ってね。でも加減はするように、でないととんでもないことが起きるから」
「ちょっ、いきなりそんな事言われても!」
「じゃあ、頑張ってね?期待してるよ!」
その言葉を最後に、一層と魔法陣の光が増していく。やがて俺の意識は、光の粒子とともに消え去ったのだった。
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