第19話

「広岡先生、僕に何か隠し事してませんか?」


僕は校舎の屋上に先生を呼び出して尋ねた。


「うん、してるよ。」

「やっぱり。でも正直に答えてくれると思ってなかったので、少し意外です。」


先生はいつもと変わらない笑顔だ。

しかし微かに、ほんの微かに悲しげな表情な気がした。

「でもね、それでもやっぱり言いたくないことはあるんだよね。」

乾いた風でなびく長い髪が、先生の表情に被る。

「・・・それは何故です?」


「その理由が一番の問題なんだよね。あっ、わざと注意惹いてるわけじゃないよ?」

「言えない理由が、あるんですか?」

「・・・うん。」


もはや先生の笑顔は作り物でしかなかく、それは仮面のように感じられた。

しばしの沈黙。

おそらく先生にこのまま質問を投げかけても、聞きたい答えは返ってこないだろう。

だったら・・・。

「先生、屋上の鍵、持ってますよね?」

「うん、大事に持ってるよ。もう落とさないから安心して。」

そう言って先生は鍵を俺の目の前でちらつかせた。

「少し貸ります。」

俺は先生の手から鍵を拾い上げ、屋上の隅へ歩を進めた。

「先生、実はこの鍵、屋上の鍵を開ける他にも"使い道"があるんですよ。」

俺の言葉を受けた先生は明らかに動揺していた。

全身が強張っているのがわかる。

そして俺は続ける。

「その使い道ってのは、こうです。」


次の瞬間、俺の目の前に空間の歪みが生まれた。

吸い込まれそうなその空間は、扉のような形にみるみる変容していく。

「この鍵は、過去と未来を行き来できる、その扉の鍵を開けることができる。」

「ど、どうして・・・。」

広岡先生はその場に崩れ落ちた。


「どうして、あなたがそれを・・・!?」


(byアオケン)

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