第10話

放課後、授業中に例の赤い自転車が停まっていた事を思い出した俺は、

HRが終わると自転車置き場に急いだ。


「こいつ、すっかりここが定位置になってるな。」

俺の場所にはいつもの赤い自転車が、何食わぬ顔で停まっていた。

「まったく、癇に障るやろーだ。」


今日の俺は、とことんこの自転車の持ち主が現れるのを待つつもりだ。

明日は休日。部活動もないときた。こんな好条件はめったにない。


さぁこい、とばかりに圭は近くのベンチに腰掛け、未だ見ぬ宮田の登場を待った。

その決意は固かった。


しかし、そんな彼の決意を知ってか知らずか、何やら校舎の方から圭の名を呼ぶ声がする。

圭が校舎の方へ振り向くと、声の主は、広岡先生だった。


校舎の窓から笑顔でこちらに手を振り、先生は言った。

「おーい!いますぐあたしの所まで来なさーい!でないと校内放送で呼び出すわよー!」


何がそんなに楽しいのか、ずっと笑顔で圭を呼び続けている。

自転車の持ち主を見つけるチャンスを目の前にして、圭が取れる行動は、できるだけ嫌そうな顔をして広岡先生に「いま行く」と返事することぐらいだった。


呼び出される理由もわからないまま、圭は自転車置場を後にした。


(byアオケン)

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