第22話情報


 馬車のゆっくりとしたスピードに合わせて周りを囲んだ冒険者達が移動する。

 前方から出てくる魔物はほとんどウォルフのメンバーが倒してしまうため、こちらにくる魔物はかなり少ない。

 俺達と同じ左側にいるのはロベルトとレイナだが、やはり戦い慣れている。

 ロベルトが前衛で敵を止めつつ隙を見て攻撃、レイナがその間に魔力を練って魔法を打ち込むスタイルだ。

 ほとんどは魔法を討つ間もなくロベルトが仕留めてしまっているが、レイナの中級の火魔法もなかなかの威力だ。

 でも焼け死んだ魔物の近くを後ろにいる俺達が通らなければいけないので、できれば炎は止めてもらいたい……匂いがきつい……。

 正面からではなく横から後方に向かってくる魔物はこちらの担当だ。

 そんなに派手な魔法を使うと目立つので、風魔法で手傷を負わせる程度にしている。

 それに俺がなにもしなくても大丈夫なほど、サーリャの動きは良かった。

 ウサギに角が生えたような豚くらいの大きさの魔物が大半なのだが、相手の攻撃を短剣でそらすか、紙一重で躱し、もう一方の短剣で的確に急所に一撃を入れていく。

 三体同時に出くわした時も、紙一重でかわしながら確実に一体に致命傷を与えつつ、他二体は蹴りなどを入れて牽制していた。

 最初サーリャがどの程度の強さなのか分からなかったので、風の鎧を体の周りに展開していたのだが、すぐに不要だと分かったので今は自由に戦ってもらっている。


 ほとんど返り血などもかぶっていないが、少量ついた返り血などはすぐにきれいさっぱり消えていくので、どうやら衣服に洗浄とか浄化とかの魔法も付与されているようだ。

 白いケープなんかは返り血付いたらどうしようと思っていたのでソフィアに感謝だ。


 夕日が沈む頃に移動を止め、野営の準備に入るようにマルウェルさんから号令がかかった。

 結局今日の戦闘で俺とサーリャが倒した魔物は十三体だった。

 そういえば戦闘の結果に応じて、報酬を出す話になっていたが、魔物十三体ってどれ位なのだろうか。



 野営の準備は夕日が落ちるまでにギリギリ完了した。

 逆にこういう作業の方が慣れてなくて大変だ……。

 それぞれのパーティ用に三つの天幕を用意した。それぞれ前方と後ろの左右にわかれて天幕は配置された。昼間と同じで俺達は左後方だ。

 夜の間は昼間に寝ていたマルウェルさんの私兵達が担当するらしい。

 何か危険が迫れば鐘を鳴らすので、一応俺達もすぐに戦闘に参加できるように準備だけはして寝るそうだ。


 とりあえず寝る前に、全パーティ集まってご飯を食べるということで、呼びに来たユウナさんに連れられて、ウォルフの天幕の前に全員集まった。


「お疲れ様。とりあえず適当に座ってくれ」


「お疲れ様です」


 大き目のナベを取り囲む形で俺達も座る。鍋の中にはシチューのような食べ物が、美味しそうな湯気を上げている。


「どうも! お疲れ様です!」


 レイクの二人も到着した。


「よし全員そろったな。今日はお疲れ様、前方を陣取っている分、魔物を倒す数が増えるから報酬もその分俺達が多くなってしまう、それじゃあ不公平なので夜の食事は今後ウォルフから振る舞わせてもらう。うちのレイナの飯は美味いから遠慮せずに食べていってくれ」


「ありがとうございます! それに不公平なんかじゃないですよ、俺達D級冒険者の危険が少ないようにしてくれてるのは分かっていますから。むしろ感謝したいくらいです」


「そう言ってくれると助かる」


「ちょっと質問なんですけど、いいですかロベルトさん」


「なんだセイン君」


「戦闘の功績によって報酬って形でしたが、魔物一体につき報酬がでるのですか?」


「ああそうだ。あとでマルウェルさんのところに行ってみるといい。昼間の倒した魔物の数は商人達もしっかりと数えているから正確に報酬をくれるはずだ」


「そうなんですか。教えてくださってありがとうございます」


「まだ分からないことも多いだろう。何でも聞いてくれ」


「じゃあご飯にしましょう! 私が丹精込めて作ったからおいしいはずよ!」


「では食べようか。この大地に感謝を」


 そういうと全員が祈りのポーズをする。あれかな、いただきます的なやつかな。

 宗教的な感じではなさそうだし、ここは合わせておこう。


 レイナのシチュー的なものはかなり美味かった。中に入っている肉なんかは、保存のきく干し肉とかだったが、上手く味付けして店に出てくるような味に仕上がっている。

 一人二つずつパンももらったが、こっちは保存がきくものなのだろう、めちゃくちゃ硬い。だがシチューとパンは合うのでパンもすぐに平らげてしまった。


「そういえば、サーリャさんはかなり強いようだな。少し心配だったので、たまに後方を見ていたのだが、三体同時でも難なく相手できていたようだし」


 突然話を振られたため、パンをかじっていたサーリャは慌てて飲み込む。


「一応昔から狩りをしていましたので、そこそこ戦えますよ」


「猫族。みんな戦闘訓練してる。みんな強い」


「そうなのか、知っていたなら教えてくれれば良かったじゃないかライアン」


「…………」


「猫族は綺麗な人も多いんですよね。俺達犬族からしたら猫族は強いしも可愛いし、高嶺の花ですよ」


「ほう猫族は可愛い人が多いのか」


「セイン……」


「いや、何でもないよサーリャ」


「でもセイン君も猫族なんだから、自分の部族の事は分かるだろう」

 

 え、なんで俺が猫族なんだ? いきなりで意味が分からなかったが、理由はすぐに分かった。

 猫耳付けたままだった……。


「すみません、これつけ耳なんですよ」


 耳をカパっと外すとみんな唖然の顔をしていた。


「なんだ人間だったのか、匂いがしないから不思議ではあったんだが」


「すいません。一応念のため変装してました」


「まぁ君の歳で獣人国を人間として旅するのは危険だろうからな、奴隷にしようと悪党が沸いてくるだろう」


「あれ? でもサーリャさんと家族って言ってなかった?」


「まぁ色々事情があるんですよ。本当に家族みたいなものなので、これまで通りサーリャに手はださないでくださいね」


「それは残念」


「そういえば猫族といえば、最近狐族と小競り合いが起きてるらしいですよね」


「え!?」


 なんだそれ……急に爆弾発言が投下されたぞ……。


「あれ、知りませんでした? 今獣人国じゃあかなり噂になってるので、猫族の人が歩いてたらかなり注目を集めたはずだけど」


 なるほど……みんながじろじろと耳を見ていたのはそういうことか……。

 それにしても猫族と狐族で小競り合いって、サーリャの連れ去られた案件がかなりからんでそうなのだが……。


「ちなみに猫族と狐族の小競り合いの理由は何なんですか?」


「えっとたしか、猫族が最近よく攫われるようになったみたいで、その連れ去った奴が狐族みたいだったってことで揉め始めたらしいです」


 あららららららららもろだよ。もおおおおろだよ。完全にサーリャも絡んでるよ。てかサーリャ以外も連れ去られてるのかよ……。


「狐族も。連れ去られてる。らしい」


「ああ、確かに直談判に来た猫族に、狐族も逆の内容で抗議したらしいですね」


「えっと……どういうことですか?」


「狐族は猫族らしき奴に何人か連れ去られているらしいです。それでどっちも一瞬即発になってて、戦争までは発展してませんが、部族領の境目では死人が出るような小競り合いがかなり頻繁におきているらしいです。ぎりぎりで両部族長が戦争を止めてるらしいですけど」


 まじかよ……。死人出てるってもう戦争じゃん……。

 てか狐族も猫族らしき奴に攫われてるとなると、なんかきな臭いな。

 両部族長もそう思ってるから戦争を食い止めてるんだろう……。

 少し情報をまとめてみるか。


 攫われた猫族のサーリャ。

 猫族は強く可愛い人が多い。

 人間の匂いのする狐族らしき犯人。

 人間と狐族は仲が悪い。

 狐族は希少な能力を持っていて昔よく奴隷狩りに遭っていた。

 遠い位置にある狐族と猫族。

 交易を任されている犬族序列は三番目。

 最近犬族の奴隷は少なくなってきている。

 猫族と狐族それぞれに奴隷狩りがおきている。

 両者を争わせて得をする奴は?

 攫われたサーリャは奴隷商によって人間の奴隷になっていた。


 なるほど……

 ほとんど読めてきた。


 両部族を争わせて得をするのはナンバー3の犬族か人間くらいなものだ。

 匂いがあまりしない奴隷狩りは、俺の使った匂い消しとつけ耳があれば、人間がなりすましていくらでも犯人を擦り付けて奴隷狩りができる。

 まず、狐族は希少な力があるため、奴隷として高値で売れるのだろう。

 そして猫族も戦闘能力と美しさから同じく高く売れる。

 変装して奴隷狩りを行うことで、怒りの矛先は隣り合った領地の両者に向かう。その間に見つかりにくいルートからエルレイン王国に連れてきて、高値で売りさばく。

 よくできたシステムだ。同時にゼルガルド王国の国力も低下させられるし、人間にはいいことしかない。


 一つはっきりしないのは犬族だ。

 交易を任されるようになって奴隷狩りの被害が犬族は少なくなっている。

 その代わりに狐族と猫族の奴隷狩りが頻発している。

 それに序列三番目の犬族は、狐族と猫族が失脚すれば、順序的にこの王国の頂点になるだろう。

 ここまでで考えると犬族が絡んでる可能性がかなり高い。

 だが、もしかすると人間達だけで行っている可能性もある。

 あとは犬族が絡んでいるか、証拠が見つかるまでは要注意として警戒しておこう。


 さすがに市民やレイクの二人のような部族の運営にかかわっていない犬族は絡んでいないだろうが、警戒は一応しておくとしよう。


 暗い話になってきたところで話を切り、全員が各天幕に戻る。天幕の周りには念のため魔法で地面の土をいじって落とし穴を作っておいた。

 自分の家族や部族達が心配なのだろう。毛布の中で震えるサーリャをそっと抱きしめ、眠りにつくのだった。


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