第21話自己紹介
俺は不機嫌だった。
せっかく初めてのクエストに期待して上機嫌だったのに、いざ集合場所に付くと、あからさまにサーリャをいやらしい目で見る奴がいる。
まぁ確かにサーリャは可愛いよ。綺麗だよ。新しい装備もすごい似合ってて男なら見ちゃうよ。でも許せないんだよ。
あれかな、距離感近くなったせいで独占欲とか沸いてきちゃってるのかもな……。
まぁこれから一緒に旅をするんだ。初めが肝心だし釘を刺しておこう。
「失礼、隊商に同乗希望の方だろうか」
「冒険者のセインとサーリャだ。女性をあまりじろじろ見るのは失礼だろうが」
あからさまに驚いた顔の後、徐々に苛立ちが見て取れるようになる。
言葉づかいが失礼だっただろうか。でも最初に牽制しておかないと、後で口説きに来たりしようもんなら面倒くさいし……。
「その前に言うことがあるのではないのか」
何かあっただろうか……。挨拶か? 名前は名乗ったよな……。
「すみません。名前は名乗ったと思うのですが、他に何か言う規則があるのでしょうか。昨日冒険者になったときに特に規則など聞いてないのですが」
「合同でクエストに行くときは、ランク上のパーティがいる場合先にくるのがマナーなの。それに今回のような隊商護衛とかだと、出発前の荷積みなんかもあるから、時間前に来て手伝わないといけないのよ。私はユウナ宜しくね」
今にも怒鳴りそうだった男を押しとどめて綺麗な女性が説明してくれた。
なるほどな、この男はランクが下の俺達が時間内にきたとはいえ、マナー違反をしたことを怒っているのか。
というかそういう裏ルールがあるなら先に教えて欲しかったよ受付のお姉さん……。
こちらに非があるみたいだし、ここは素直に謝っておこう。
「そうだったのですか……。そういうルールがあることを知らないとはいえ、申し訳ありませんでした。先ほどの失礼な言動もすみません。サーリャは家族なので、ついついムッとしてしまいました」
「……知らなかったのなら仕方あるまい。今後は気を付けてくれればいい。こちらも家族をじろじろ見てすまなかった。冒険者チーム<ウォルフ>のリーダーロベルトだ。宜しく頼む」
意外と素直に許してくれたな。これでまだ怒ってくるようだったらこの後の旅もかなり面倒くさくなっただろう。
「はいはい。まあ挨拶もろもろ終わったし、出発しましょう。マルウェルさんも待ってくれてるし」
その後マルウェルさんに挨拶をすませ、他の冒険者達にも謝罪した後、街から出発した。
個人的なイメージでは馬車の周りを冒険者がずっと固めることを想像していたのだが、違うらしい。
場所ごとに魔物や盗賊がよく出る場所があって、そのあたりでは隊商の周りを歩くことになるが、それ以外は真ん中の冒険者達が乗るように用意された荷馬車で待機してていいようだ。
意外と大き目の荷馬車だが、八人も乗るとかなり狭い。杖を持ってこなくてよかった……置く場所がない……。
「とりあえず自己紹介しましょうか。私は<ウォルフ>のレイナ。魔術師です」
最初に話を切り出したのは<ウォルフ>のレイナという女性だった。年齢は二十代後半くらいだろうか。
長い茶色の髪のお姉さんだ。ローブや木でできた杖を持っているから魔術師とはすぐに分かる。C級冒険者チームらしいから上級魔法は使えないと思うが、俺の魔力を探知させないように気を付けよう。
「じゃあウォルフから自己紹介していこうか。俺はC級冒険者チームウォルフリーダーのロベルト、剣士だ。しばらくの間宜しく頼む」
ロベルトは剣士のようだ。腰に剣があるから間違えようもないが。見た感じレイナさんと同じくらいの歳だろう。皮鎧に身を包んでいるから前衛のアタッカーなのだろう。
「ライアンだ。前衛。戦士。宜しく」
ひときわ大きな体の獣人族はライアンというらしい、戦士か、いまいち戦士と剣士ってよく違いが分からないんだよな……。この人は三十代前半かな? 少しわかりにくい。大きな斧に、部分部分を覆う鎧が屈強な男と理解させる。というか少し怖い……。
「別にライアン怒ってるわけじゃないからね。私はユウナ、探索者です。弓がメインだからアーチャーって言ってもいいかもしれないわね。宜しくお願いします」
サーリャより年齢は少し上だろうか? 二十歳とかかな? 可愛いというよりどちらかというと綺麗というのが合ってる気がする。金色のセミロングの髪が特徴的な美人だ。動きやすそうなショートパンツにブーツ、サーリャと少し服装がかぶっているが、身軽さが必要なのだろう。
「では次は俺達ですね。D級冒険者チームレイクのフェルです。ウォルフさん達の足を引っ張らないように頑張りますので宜しくお願いします」
「同じくレイクのエイルです。二人組なのでどちらもリーダーって感じでやってます。二人とも前衛の戦士です。宜しくお願いします」
ふむふむ。この二人組も戦士か。小さな盾と片手剣を装備してるから、二人とも戦うスタイルは一緒なのだろう。さっきからサーリャをチラチラ見てるが、サーリャは俺のなんだ。ごめんな。
「では次は私達ですねセイン」
「ああ、そうだね。じゃあ俺から、セインと言います、俺を見て皆さん驚いていましたが、見た目どうり九歳です。武器を持ってないですが、一応魔術師です。宜しくお願いします」
「魔術師なのか」
「じゃあ私と一緒ね」
「へぇ」
周りが驚いている。そんなに珍しくないだろう。そこにもいるじゃないか魔術師は……。
「では次は私ですね。サーリャと言います。獣戦士です、武器は短剣二本です。宜しくお願いします」
「サーリャさんは前衛ですか。安心してくださいね。俺達レイクがしっかり守りますので!」
「いえいえ、私も前衛なので、守ってもらうわけには……」
「あらあら大人気ねロベルトも参加しなくていいの?」
「俺にはお前がいるだろうが」
「その割にじろじろ見てたじゃない」
「…………」
レイクの二人はサーリャに惚れてるようだな……。まぁサーリャは相手にしないだろう。しないよね?
ロベルトはレイナさんの尻に敷かれてるっぽいから、困ったらレイナさんに助けてもらおう。
「そろそろ魔物がでる平原にでますので、護衛の方お願いします」
「了解しました。じゃあみんなそれぞれの職は分かったし、前衛後衛を上手く分けて陣を取ってくれ。戦ったことのない敵や、手が終えないときはすぐに俺達ウォルフに言ってくれ。ルールとしては敵が見えたらすぐに知らせる。以上だ。行こう」
俺とサーリャは後方の左側、レイクの二人は右側、ウォルフの四人は前衛後衛の二人組ずつに分かれて前方の左右に陣を取る。
照りつける太陽の下、広大な草原に続く一本道を進む。
この先に何が待ち受けているのか、今はまだ誰も知らない。
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