第3話二つ目の世界

  二度目の世界でのスタートを切った俺の目に最初に映ったのは、赤い色の髪の、美女だった。

 年齢は二十代前半くらいだろうか。

 にこやかな笑顔をこちらに向けている。


 その横には産婆であろうか、赤い髪の美女の額の汗を拭いている。

 二人は何かを話しているが、言葉が分からない。


 まぁこんなに自然な赤い髪を見た時に大体予想できたが、ここは俺のいた日本ではないらしい。

 ただ単に外国なのか。それとも異世界なのかの二択だろう。

 日本に転生することを望んでいた俺は、言葉が分からないなんてことをまったく予想していなかった。

 都合よく言葉がわかるはずもないが、かなり不安になってきた。



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 半月が経過し、色々と家のことが予想できるようになってきた。


 これはほぼ、最初から分かっていたが、あの赤い髪の美女が、俺の母親にあたるようだ。

 子守になれないながらも、俺の面倒を見てくれる。

 というか多分自分より年下の女性に、世話をしてもらうのは正直かなり恥ずかしい。


 そしてかなり驚いたのが、この世界には魔法があるようだ。

 前に母親がロウソクのようなものに、ボソボソと呪文のようなものを呟き、手を向けるとロウソクに火が燈っていた。

 うん。ぜひとも使えるようになりたい。


 そしてこの家は高貴な身分、もしくは単に金持ちなのが分かった。

この予想は、かなり高貴な感じのする執事がいることと、家政婦が何人かいたのでそう結論づいた。


 執事は武官じゃないかと思うくらいガタイがいい。

 背筋に鉄パイプでも入っているんじゃないかと思う姿勢の良さも、品格を感じる。


 逆に家政婦たちは、かなり威勢の良いおばちゃんが指揮を執っていて、十代後半から二十台後半くらいまでの女性たちと共に仕事をしている。

 おばちゃんは多分三十台後半って感じだ。

 おばちゃんを見てるとまったくわからないが、家政婦たちは、下級貴族の三女とかの人間がほとんどだそうだ。

 ほとんどの家政婦はかなり整った容姿をしている。実際可愛い。

 どうせならメイド服をとか……期待しちゃだめだよね。うん。


 この世界は、俺のいた前世と違い、ガスや水道、電気などはないようだ。

 朝早い時間から家政婦たちがせっせと働いて水を用意したり、火を起こして料理しているようだ。

 火を起こしているところを見て気がついたが、魔法は誰でもは使えないのだろう。

 俺にはセレス様の祝福とやらで才能があることを祈ろう。頼むぞセレスちゃん。


 言葉はまだあまり分からない。

 注意深く人の会話を聞いて勉強中だ。

 まだ半月しかたってないので、気長に勉強しようと思う。



 そして、この家最大の謎は、まだ父親を見ていないことだ。

 離れて暮らしているのか、仕事で別の場所にいるのか。

 まぁしばらくすれば会えるだろう。



---


 一年ほど経過した。



 完璧ではないが、言葉が分かるようになってきた。


 まず俺の名前だが、セイン・レイフォードと言うらしい。

 やばい外国名カッコイイとかすごい感動した。

 どうやらセインが名前、レイフォードが苗字みたいな感じのようだ。



 母親の名前はエレナ・レイフォードというらしい。

 執事がクレイル・ライオット。



 そして一番の謎だった父親だが、家政婦たちの立ち話によって知ることになった。



「旦那様、魔国の侵略を止めるために指揮をとっていたらしいんだけど。隣の陣の戦士中隊長が、魔国の魔法騎士長にすぐやられてしまって。なんとか戦線を立て直して進攻を止めたのだけど、深手を負って亡くなったそうよ」


「隣のセルドニア王国は、侵略してきた魔国に殆ど手も足もでなくて、今じゃ従属国家だもんね」


「このエルレイン王国は戦士の階級制度もしっかりしてるし、数は神聖帝国に劣るけど、質は神聖帝国に匹敵するくらい強いと言われているから、セルドニアのようにはならないとは思うけど……」


「でも五人の王国戦士長の内の一人である旦那様が、一回目の侵攻でお亡くなりになるなんて、不安よね」


「でも魔国の魔法騎士長は、旦那様が倒して、相手の兵もかなり減ったようだから、すぐまた侵攻して来ることはないでしょう」


「さすが旦那様よね。でもエレナ様は……」


「それに、当主が亡くなった今、この家を継ぐのはエレナ様かセイン様だけど、エレナ様は元々王族からこの家に嫁いだから、特例がないと当主を引き継げない決まりだし。セイン様は、法で十五歳以上でないと、家を継げない決まりだから、王国の上層部もかなりもめてるらしいわよ。魔国の侵略を止めた英雄の家を取り潰すのかって、国王は言ってるのだけど。他家の貴族が、法は法と、ここぞとばかりに家を取り潰そうとしてるみたい」


「旦那様、他家のように貴族同士でいがみ合ったりする人じゃなかったのにどうして……」


「実際一歳のセイン様に継がせたとき、この家と領地の運営だったり、貴族会議や軍議も空席になるから確かに問題だらけだけど、やっぱり一番はエレナ様よ……遠縁だけど王族の血縁だし、あの美しさ、国中の貴族が求婚した伝説はいまだに健在ってことじゃないのかしら……」


「そういう理由の人も確かにいるだろうけど、他にも理由はあるでしょ。王族が貴族家を引き継いで、王族と貴族の力のバランスが崩れる事を危惧してるんじゃないかしら」


「なるほどね。最近貴族の発言力も大きくなってきているから余計よね」


 色々衝撃の事実が、一斉に語られた感じだ。

 まず父親は王国戦士長とかいう立場で、戦場で最近死んだようだ。

 最近エレナが落ち込んでいるように見えたのはそういうことだったのか。


 まず魔国や戦争って言葉もかなり怖い、無知とは本当に恐ろしいことだと痛感する。

 この国がエルレイン王国って国で、おとなりさんがセルドニア王国、その国は魔国の従属国家になってしまったことも分かった。

 あと神聖帝国って国もあるらしく、その国はかなり強いらしい。


 エレナは普段、何ともないように過ごしているが、この家は取り潰しの危機らしいが、今の俺には何もできないのが悔しい……。

 前世でも片親だったので、何の運命かと思ったが、親孝行できなかった未練が俺にはある。

 せめてエレナを守れるように、早く成長しようと決めた。


 とりあえず今できる情報収集を継続して、言葉を話せるよう練習することにした。

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