気軽に読める短編集
アレジン
I want you!
僕が映画を観る時にはある決まったスタイルがある。
それは必ずコーラとポップコーンを買うこと。そして、右側のドリンクホルダーにコーラの紙コップを入れ、左手でポップコーンのカップを抱えながら映画を鑑賞する。これが僕の子供の時からの黄金スタイルである。
そして、映画を観るときは周りに人がいないでほしいとも思う。
だが、今回はあきらめるしかない、今話題の人気作だからだ。特にこの映画の主題歌が人気らしい。男女問わずに好きな曲に挙げているくらいだ。
僕はそんなことを考えながら、右手でコーラの紙コップをつかむ。
コーラを口に入れ、ポップコーン2、3個口に運ぶ。紙コップをホルダーに戻そうとしたとき、違和感を感じる。僕はホルダーに目を向けた。そこにあった僕のではない紙コップがあった。右隣の女性に睨むような視線を向けると、僕の威圧が効いたからなのか無言でカップを取り、申し訳なさそうな表情で僕に頭を下げた。
その瞬間から僕の頭の中は映画ではなく彼女でいっぱいになった。
目線は映画に向いているが、頭は彼女のさっき顔や映画の始まる前に聞こえていた美しい声でいっぱいになっている。
「今日、映画を観に来てよかった」と、心の中でつぶやいた。
思い返せば僕の人生の中で、こんな経験は一度でもあっただろうか?
いや、今までになかった。ずっと映画ばかり観ていた僕には初めての経験である。でも、よかった。こんな経験を1度でもできたのだから。
映画はスタッフロールと例のみんなのお気に入りの曲が流れている。
改めて聴いてみるとすごいいい曲である。
彼女もこの曲が好きなのだろう。
映画館を出ると外はもう真っ暗であった。
暗い夜道を歩きながら僕は思う。
「あなたが欲しい」
「僕にはあなたが必要だ」
「僕はあなたを愛してる」
そんなことを思いながら僕の歩くスピードはだんだんと速くなっていく。
テンションもだんだんと上がっていく。
僕は思った。
「僕はあなたを感じたい」
僕は手を伸ばす。
「僕はあなたを触っている」
僕は振り向いた彼女の顔をみてさらに手を伸ばす。
「僕はあなたを抱きしめる」
暗闇に女性の悲鳴が響く。
やがて、パトカーのサイレンの音が近づいている。
そして、彼女の泣き声。
サイレンの音と彼女の泣き声が僕の中でヘビーローテーションしている。
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