【釜鍋戦争】4.二つの国の下々が入り交じったらしい
さて、チクサン地方に訪れたひとめぼれ女王ご一行。
ここは古くよりオナベー王国と取り合っていた地域で、牛や豚、鶏を始めとする畜産業が盛んなところです。そのため、あちらこちらから生い茂る牧草の匂いと牧場独特の動物の匂いが充満しています。
しかし、今日はのどかな牧場風景よりも、その脇に出来ている家々と市場、そして一緒に道を闊歩する男女が目に付きます。
「きぃぃぃっ何なのようこの光景はぁ!! ありえない! 何で奴隷だったはずの男女が国境の狭間で平和そうに暮らしているのよう!!」
ひとめぼれ女王は手をグーにして上下に振り回しています。とにかくこの状況が気に入らないご様子です。
ひとめぼれ女王は後ろについてきていたシャモジ宰相を呼びました。
「シャモジ! 分ぁかっているの? ここの鶏権限がオナベー王国に奪われたから、あたくしたち、ずぅっと鳥釜飯も卵釜飯も食べられていなーいのよ? それが取り返すどころかこんな事態になっているだなんて納得がいかなぁーい!! 寝返った駄女兵に灸を据えてやりなさい!!」
言われてシャモジ宰相は僅かな手勢を従えてチクサン地方で和気藹々と暮らす女たちのところへ向かいました。
「お前たち、私はお城の者です。何を勝手に戦をやめて日常生活を楽しんでいらっしゃるのですか。女の身ではしたない! 女王陛下がお怒りでございますよ! 早く戦に戻らねば、手痛いバツを与えますよ?」
「し、しかしお偉い様。私たちは気が付いたのです。反発し合うだけでは何も生まれない。お互いに手を取り合うことが、何よりも強く気高いことなのだと……!!」
「何を言っているのですか、皆目意味が分かりません」
「それなら、あなたもこれを食べれば考えが変わるはずです……!!」
ビクビクと怯える女の後ろから、敵兵だったはずの男が両手に湯気の立った鍋を抱えて現れました。シャモジ宰相は思わずウッと鼻を摘み、穢らわしいものを見る目つきで件の男女を睨みました。
「なんと、この私に穢らわしい鍋料理を食べさせようというのですか?」
しかし男は首を横に振りました。
「いいえ、これはただの鍋料理ではございません。釜で炊いたばかりの白米と、トマトチーズ鍋を合わせたもの、その名も――」
ぺっかーんと男が蓋を開けた瞬間、シャモジ宰相はその目でしかと見たのでした。
チーズとトマトと鶏肉が白米と混ざり合って出来た、その料理を……!!
一方、キノコー地方に訪れたすきやき王ご一行。
松茸、マイタケ、シメジ、エノキ、椎茸、エリンギなど、とにかくキノコがよく採れるこの地方もまた、オカマメシー王国と領地を取り合っていたところでした。
そうしてオカマメシー王国ご一行のときと同様に、オタマ将軍が僅かな手勢を従えて事情を聞きに行っていたのですが、数時間してオタマ将軍だけがよろけながらすきやき王の元へ戻ってきたのでした。
「な……っオタマ将軍! 随分弱っているではないか!! 君は一体、誰にそんな目に遭わされたんだい!!」
「陛下……っ一緒に向かった家来たちが奴らに絆されてしまい、一緒に付いていた侍女も奴らの虜に……!! しかしもう私にはどうすることも出来ません……! 何故なら私も……っ!!」
「オタマ将軍……! おい、しっかりしろ! オタマ将軍! オタマーっ!!」
オタマ将軍はすきやき王の腕の中で、ばたりと意識を失われてしまいました。すきやき王はぐっと呻ります。
「オタマ将軍……! 君の無念は僕が引き継ぐよ……! オカマメシー王国め、何があったか知らないが、こんなひどい目に遭わせるなんて、もう許さない……!!」
すきやき王はぐっと拳を握り心を決めると、オタマ将軍の身体を人目の付かないところに寝かせ、馬に乗って次の地方へと急ぎました。
しかし、すきやき王は気が付かなかったのです。オタマ将軍が寝ながら恍惚の笑顔を浮かべ、幸せそうにしていたことを。
そしてその寝顔が、さながらどこかの麗しい貴婦人のようであったことを。
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