【釜鍋戦争】3.争いは突然なくなった

 それから数ヶ月経った頃、前線がぱたりと動かなくなりました。

 それどころか、争い自体がなくなっているのです。

 しかし不思議なことに、ひとめぼれ女王やすきやき王が命令したわけではなく、ましてや休戦協定を結んだわけでもありません。

 自然消滅的に、争いがなくなったのでした。




 当然ひとめぼれ女王は不審に思います。


「ちょっと、一体どういう事なのよう!? 兵たちが命令をきかないだなんて、ありえなぁーい!! 取り込んだ男共はどうしたのぉ? 説明しなさいよぉ!!」


 ひとめぼれ女王は扇でシャモジ宰相の頭をペンペン叩きながら怒り狂いました。おやおや、シャモジ宰相はまたも嬉しそうな表情を浮かべていらっしゃいますが、またも怒りに任せてホタテ釜飯を頬張るひとめぼれ女王は気にする様子もありません。

 シャモジ宰相は佇まいを正して言いました。


「ハッ。取り込んだ男たちはひとめぼれ女王に忠誠を誓い、向こうに寝返った女共々オナベー王国を蹴散らしてくるという意気込みで戦いに向かったはずだったそうなのですが、偵察部隊に探らせたところ、なんと前線で戦っていたはずの男と女が共に生活をし、新たな村を各地で築いているらしいのです……!!」

「何ですってぇ!? く……っあの女狐共め……!! あたくしの男たちを誑かしたのねぇ! ぜぇったいそうに違いない!! だから女は品がなくて大ッ嫌いよぉっ!!」


 ひとめぼれ女王はあまりに憤慨なさっておいでで、食べていたホタテ釜飯が一瞬にしてなくなり、新たに鴨釜飯を頬張り始めました。

 そんな様子をうっとり眺めながら、シャモジ宰相は続けました。


「更にもう一つ不可解なことが起こっているそうなのです」

「何よ、早く言いなさい!」

「新たに派遣した兵たちが、前線から帰ってこなくなったのです……」




 同じやりとりはオナベー王国でも起きていました。


「前線から兵が帰ってこない……だと? 一体どういう事だ?」

「それが私にも分からないのです、陛下」


 フグ鍋の匂いが充満するすきやき王の執務室で、オタマ将軍は項垂れました。

 すきやき王が熱々のニンジンと一緒にフグを口に運ぶご様子を羨ましそうに眺めながら、オタマ将軍は更に言いました。


「どうやら前線で出来たと言う村々に兵たちが住み着き始めたとの話ですが、何故そのようなことが起きているのか……」

「むぅ……僕の子猫ちゃんたちと一緒に暮らし始めたということなのか? しかし僕は一言もそんな命令はしていないぞ。それとも、あの無粋な野郎共が子猫ちゃんたちを手込めにしようとしているのか?」

「そういう地域もあったそうですが、しかし今はどの村々も和気藹々としている様子だとか」


 オタマ将軍は密偵からの報告の通りにすきやき王にお伝えしましたが、しかしすきやき王はおかしそうに笑いました。


「和気藹々だって? バカを言うな、可愛らしくいたいけな子猫ちゃんたちと、あの男共が同じ村で幸せに暮らせると思うのか?」

「いえ……私も俄には信じがたいのです。しかし……」


 尚も渋るオタマ将軍の様子に、すきやき王はやれやれと肩を竦めました。


「仕方ないな。何が起きているのか、実際に確認してみなければなるまい」

「そんな……っ陛下ダメですわ!」


 突然二人の会話に割って入るのは、すきやき王お気に入りのバンビ二号。彼女はすきやき王の腕にしがみついて首を振りました。


「まさか陛下までも野蛮な男たちにいいようにされてしまうのではと思うと、わたくし、わたくし……っ!」

「心配してくれるのかい、僕のバンビ。しかし安心してくれたまえ。どれだけこの鍋の白滝が解れても、僕の心は絆されないさ」


 すきやき王はそう言いながら、バンビ二号の口に自分の口でふーふーして冷ました白滝を放り込みました。フグ出汁の浸みた白滝に、バンビ二号は一瞬でうっとり顔です。




 ……話が逸れました。

 そういうわけで、前線で何故争いが消滅し村が出来たのかを調査するため、オカマメシー王国からはひとめぼれ女王が、オナベー王国からはすきやき王が自ら前線の地域へ向かうことになりました。

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