食卓の輪舞曲~そして寿司は踊る~
天鎧
寿司で回る世界
2024年、日本が第3時世界大戦を制し地球の70%の領土を得、小さな島国から大国へと変わった。第3時世界大戦は『食』による戦いであった。人々は生まれ得たその国の食の力を持って戦った。
食の力とは、食した物の力を得る力であり、例えば馬刺しを食べれば馬のような脚力を得ることができるのだ。
食の力は生まれて長くから慣れ親しんだ食べ物を食すると通常の5倍以上の力を得ることができる。
そして日本はこの食の戦争に置いては他の追随を許さなかった。
生粋の日本人はどの国の人よりも若くから万能食品SUSHIを摂取して生きてきた。
SUSHIの力により日本は他国を圧倒し続けたのだ。かつて軍事大国と呼ばれた米国でさえ、日本のSUSHIの力の前では、刺し身の下の米にしか過ぎなかったのだ。
世界の7割を手にした現代日本の三大軍事力はSUSHI・TENPURA・SUKIYAKIであり、これらは三種の神器とまで呼ばれ、民衆からは畏れ親しまれているのだ。
2025年、戦争が終わり一年の月日が流れながらも世の中は混乱に包まれていた。
第3時世界大戦によって残された傷跡。SUSHIの能力で生み出された酢の匂いが未だ街を満たし、世界を満たし人々は酢の風に常に晒されていたのだった。
生粋の日本人は酢の匂いには慣れているが、新日本人であるアメリカ人やドイツ人と言った海外の人間は寿司に対して抵抗が無く酢の風に当てられ人々は徐々に狂っていった。
世界を食の力。SUSHIの力で統一酢べく、全世界に日本島より24人のSUSHIのエキスパート『TSUKIJI24』が派遣され各地域の統制を行っていた。
-旧ワシントンD.C-
かつてアメリカの首都と呼ばれ栄えていたこの街だが、今はSUSHIの力で弾圧され、人々は常にSUSHIに怯える日々を送っていた。
「んんーやはり、寿司の香りがする街は素晴らしいなぁそうは思わないか?たかし」
たかしと呼ばれた青年は寿司職人の格好で顔は厳しく周りを警戒している。
「ひろし・・・少しは緊張してはどうだ。昔は治安が良かった街でも、今ではスラム街と化している地域もあると聞く。この街もそうかも知れないんだぞ」
常に警戒しているたかしに対してひろしは気を抜いている様子で、任務地についてもヘラヘラしていた。
「おいおい、そんなおっかないこと言わないでくれよ。そもそもこんな食文化がぐちゃぐちゃになった国で食に対して信念もない奴らが俺ら食の力『SUSHI』のエキスパートに敵うものか。そうやってずっと気ぃ張ってたらいざって時に動けなくなるぞ?それよりちょっとはこの銀シャリに染まった街を眺めて見てもいいんじゃないか?こんな銀シャリ塗れの街はそうそう無いぜ?」
この旧ワシントンD.Cは首都と言うこともあって、他の地域よりも激しい戦闘が行われていて、強大なSUSHIの力の波動により、ワシントンD.Cは銀シャリに染まっていた。
きっと夜には月明かりが銀シャリを照らし幻想的な銀世界を描くであろう。
だが、この銀シャリの世界は生粋の日本人にとっては美しく、所かしこに銀閣寺が建っている感覚になるが、この街に住んでいる人間からしたら堪ったものではないだろう。
「私たちに恨みを持っている人間はこの街に多くいる。精々後ろからビーフジャーキーを刺されないように気をつけるんだな」
二人が街を歩いていると前から1人の小柄な子供が歩いてくるのが見えてきた。
子供は半袖短パンを着ていて、服の所々に酢飯が付いていて見てすぐに戦争の被害者であるということが分かる。
「ひろし、警戒しろ。子供だ」
「分かっている」
短く会話をした後、二人は腰につけられている寿司ホルダーから寿司を一貫取り出した。
ひろしはホタテ握り、たかしはヤリイカの握りを選び、腕に付いている醤油サーバーに軽く通し口にした。
咀嚼し飲み込んだと同時に子供が猛牛のように突進してきた。
普通の子供ではありえない速度、地面を踏むたびにドスンドスンとなる地響き、この子供は食の力を得た子供だ。
「牛肉の力だな」
ひろしが呟くとたかしの前に立ち両手を交差させ、防御体制を取る。
ドン!
車と車が衝突した様な音を立て子供の突進をひろしが止める。
子供が進もうとするがひろしはビクともしない。一度引き何度も突進を繰り返すが大きな音を立てるだけでビクともしない。そして驚く事にダメージを受けている気配もない。尋常じゃないほど強固なのだ。
ひろしの強固さは先程食したホタテ握り由来の硬さだ。
貝殻によって守られたホタテを食した事によってその硬さを得たのだ。
「たかし、もういいか」
ひろしが聞くとたかしは静かに頷いた。
子供が再度突進をするために身を引き、距離を取って加速しだす。
それを見たひろしはサッと体を左に避けた。
子供は最高速度で突進してくる、この突進を直撃すればホタテを食していなければひとたまりもないだろう。
「これも仕事だ、許せ」
だが、たかしと子供が衝突する瞬間、たかしは子供の喉めがけて尖らせた右手を突き出した。
ヤリイカの食の力を宿したたかしの右手は子供の喉を貫き、子供はビクリと体を震わせ脱力する。
ゆっくりと右手を喉から抜くを子供はドシャと崩れ落ちた。
地面に伏せ動かなくなった子供の死体を見つめ二人は嘆く。
「やはり、世も末だな。俺ら生粋の日本人に対抗できるのが子供だけだなんてな」
「子供は若い故によく食べる、それに一年以上同じ物ばかりを食べれば嫌でも食の力は強くなるだろうからな。国がしっかり法や国民の意識を統一するまで、私たちが反乱分子を排除するのが仕事だ。割り切らなければ足元を掬われるぞ。ほら、周りを見てみろ、今の戦いに釣られて子供たちが集まってきたぞ」
ひろしは何時になったらこんなことしなくて済むのだろうと思うが、きっと終わりは無いのだろうと集まる子供たちを見て再認識した。
いずれ本当の平和が訪れ皆で寿司を食べれる世界になることを願い、二人は寿司ホルダーに手を掛けた。
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