第1話 地下に埋まった希望の光

4月。

桜が咲き誇り、生き物たちが活動しだす春。

普通なら夢と希望あふれる楽しい季節、・・・のはずである。

こんな状況でなければいつも通りの日常でいられるはずだった。


2年前・・・、東京五輪が終わった次の年だった。

突如北京にミサイルが落ちたというニュースが世界中を駆け巡った。

最初は戦争が始まったものと思われていた。

しかし、ミサイル攻撃は終わらず、上海、香港、広州、南京と主要都市へと

次々に落とされていった。

さらに朝鮮半島の都市にも落とされ、世界中がパニックとなった。

米軍なども出動したが、現地に行ったきり音信不通となった。

ただ、最後に送られてきた通信では、空に浮かぶ巨大な飛行物体と

そこから落ちてくる姿が観測されたらしい。


この攻撃は次第にアジア、ヨーロッパ、アラブ、アフリカ、アメリカ大陸、オーストラリアと拡大していった。

国連も緊急事態宣言を発表し、各国軍が抵抗を試みるもののすべて攻撃を防ぐ事は

できなかった。


1年。これが人類が戦えた期間である。

世界は、日本とアメリカの半分を残し、宇宙から現れた敵勢力に占領されてしまった。


アジアでの攻防のさなか、日本にも攻撃があった。

6月24日、東京にミサイルが落ち、都心から港湾地帯までが廃墟と化した。

恐怖ではあったもののパニックにはならず、治安もそこまで荒れなかったらしいが。

天皇陛下は奇跡的に何を逃れ、京都御所で過ごすこととなった。

京都に臨時政府が設けられ、各県での自治制が取られている。


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


津田つだ優一ゆういち。私の名前だ。

今年で23歳になる。

鉄道企業に勤めていた。今は動いていないが。


自治制になって以来、産業は廃れ、役所や発電所、水道など生活に必要不可欠な仕事以外はすべて無くなった。

産業が無くなり、海外との貿易もなくなった今、食料は自己生産せねばならない。

人々は土地を耕し、日々食料を収穫した。自給率は100%近いものになっていた。

また、足りない品は物々交換で仕入れた。


私は福岡の平野部にいた。山の麓といったほうが正しいか。

とりあえず、どっちにしろ土地には困らなかった。

畑を2枚、田んぼを1枚持っていた。一人暮らしには十分だ。

家族は高校のときに亡くした。私を含めて5人家族だった。

父、母、2人の姉、末の私。

まともな遺品といえば、父がつけていた細長い六角形の『盾』を模したペンダント

くらいだ。

5人で暮らしていた一軒家には今は私一人だけだ。2階は物置にしてしまった。

寂しい思いは無かったが、このまま一人で死んでいくのか、もしくはここも宇宙人に

占拠されるのかと常に考えていた。

日本はトップクラスの防衛力を持ち、今までずっと敵からの攻撃に耐え続けてきた。

だが、これもいつまで続けられるかわからない。

時間はあまり無い。対抗する手段が必要だった。



そんな時だった。

私はある日、庭の倉庫の整理をしていた。

昼になり、一段落終えようとしたときだった。

ヒューっと風が吹いた。 私は違和感を感じた。

外なら自然なことだが、ここは倉庫の中だ。風が起こるはずが無い。

再び風が吹き、それと同時に床のマットがヒラヒラと動いた。

私はマットの上の小型発動機をどかし、恐るおそるマットをどけた。


そこには扉があった。

私は少し驚いた。こんなものがあるとは家族から一切聞かされてなかったからだ。

床下収納だろうか、いや、それにしても風が起こるはずが無い。

すこし悩んだ末、思い切って開けてみることにした。

ギギギギィィィィィ・・・

軋む音とともに若干錆付いた扉を持ち上げた。

すると先ほどよりも強い風が吹いてきた。

見ると、地下へと階段が続いていた。

一段目の横にあったスイッチを押すと、一気に下まで電気がついた。

先ほどの恐怖とはうって変わって、好奇心が沸いた私は、下へと降りてみることにした。


思えばこの発見が人類の運命を大きく変えるとは、この時は思ってもいなかった。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る