死神の恋の仕方
翡葉 さく
第1話 死神ルーイル
あなたは死神を信じるだろうか?
幽霊を信じるだろうか?
そんな漫画みたいなことはないと笑うだろう。けれど俺には見える。幽霊や死神が見える。そんな体質のせいでいろいろと苦労があった。だから好きこのんで関わろうとはしなかった。
そんな俺には大事な「約束」があった。
いや、「約束」というには朧げなものでずっと心に引っかかっていた
この世界は「生きている人間」が生活している『此岸』と「生きている人間」が死んだ後に行く場所である『彼岸』の二つに分かれている。
彼岸。
私―ルーイルは彼岸の側の住人だ。職業は死神。
死神は此岸の住人の魂を回収して来るのが主な仕事だ。死神には「鎌なし」と「鎌あり」の二つの段階がある。鎌なしは半人前のことだ。半人前の死神は死神の鎌を持てないため、「鎌なし」と呼ばれる。鎌ありはその逆で一人前で死神の鎌を持てるためにそう呼ばれる。此岸の住人は死神のことを不吉な存在だと伝えられている。理由は死神が自分たちの所に来るのは死が近づいているからだという。
「まぁ、当ってるんだけど」
ルーイルはそんなことをつぶやきながら此岸から回収してきた黄色と青色の蝶とヒバリの形をした魂が三つ入った銀色の虫籠を手に彼岸に続く『門』をくぐる。人の魂は、十人十色だ。蝶だったり猫だったり様々でその形はその人の性格、生きてきた時間そのものを表している。
自分の籠の中に入っている蝶を見ながらルーイルはこの魂はどんな人生を送ったのだろうと思った。
自分はいつも魂を回収するといつもそんなことを考えてしまう。ルーイルの上司は人の魂の生前のことなんかを考えてはいけないと半人前の時からずっと言われている。死神の中で一番優秀なルーイルだがその一点だけ同僚や先輩の死神たちに言われる。
「あ、そんなこと考えている暇なかった。サヒィラ先輩のとこに報告に行かないと」
仕事から帰ったらまず自分の担当の先輩に仕事の報告と魂を預けることが規則に定められている。破ると先輩から罰を受ける。それはそれはおそろしい罰が・・・・・
ルーイルも一度だけさぼったことがあった
その時サヒィラに一日中書類整理と多くの死神が回収してきた魂の人生の記録が書かれた書物が保管されている書庫の整理をさせられた。書庫はほとんど手入れがされない所ですごく汚い。だから掃除も一緒にさせられたからその日は自分の死神人生の中で一番最悪な日だった。その翌日から絶対にさぼらない心に決めた。
ルーイルは、先輩のいる中央街へ向かった
彼岸は、中央街と地方街の二つに分かれる
中央街には死神たちを束ねる閻魔と死神長がいる『大園』と死神たちの住居と店、役所があり、此岸への出入り口の門が東西南北に設置されている。地方街には死神が回収してきた魂が住んでいる。建物は寝殿造りがほとんどだが、現代の平屋の家もある。まるで此岸の現代と平安時代が一緒になった感じだ。
サヒィラのいる中央役所は、中央街の真ん中に建っている厳島神社のような建物の東回廊の側にいる。
その建物へ続く大通りをルーイルは小走りで進む。
「ルーイル!また多くの魂を運んだのね」
突然後ろから声をかけられて少々びっくりしたが、後ろを振り向く。
「あ、クル。久しぶりだね。あんたも今仕事の帰り?」
クルと呼ばれた十三歳くらいの少女は、ルーイルに向かって手を振りながらやってくる
クルはルーイルと同じ死神で半人前の時からの友で同僚だ。主な仕事の担当地区はルーイルとは違うため一人前の死神になったとき以来会っていない。だからこうして会うのは久しぶりなわけだ。
「そうだよ。エジプトに行って来た」
クルはなぜか嬉しそうにルーイルに語る。
それから二人並んで中央役所を目指した。歩きながら今までのことをいろいろ話した。
そばらくすると目の前に厳島神社のような建物が見えてきた。社の前にある門に武装した男の死神が二人立っている。ルーイルとクルはその二人の男に胸元につけている死神の証である百合と鎌の形に彫られた銀のブローチを見せる。すると二人の男はすんなりルーイルたちを通した。
「いっつも思うけどあの二人無口でしゃべらないのかなぁ」
クルは不服そうな顔をして後ろに見える門に立っている二人の男を睨み付けるように視線を送りながら言った。
それを聞いたルーイルはどうでもいいだろう、そんなことと思ったが確かにそうだった自分が死んでここに来たときからしゃべらなし、動かない。死神だということはサヒィルから聞いたが変だった。
「そうだね。先輩に私たちと同じだって聞いたけど」
「ふーん」
自分で聞いたくせにそんな返事か・・・
と思ったが、クルは初めて会った時からどうでもいいことに気をさく癖がある。それ以前つまり生きている時のことは知らないがたぶんそのときからあったのだろう。そのくせについてはクルの先輩にずっと叱られている一人前になった今でもだ。言われ続けているのは自分も同じだからあまり自分から強くは言えないがそのくせのせいで何度か仕事に失敗している。
「そんなことはいいから早く先輩の所に行かないと罰が・・・」
ルーイルが慌てた様子で言うとクルもびくっと肩を上げ歩くスピードを上げた。
「はいはい。確かに受け取った」
「あ・・・ありがとうございます」
クルと共に大急ぎで先輩たちのいる東回廊に向かい、その入り口でついさっきクルと別れた。今ルーイルは自分の先輩でいろいろ面倒を見てくれているサヒィラの部屋にいた。ここに向かっている途中で走ったため息が切れ切れだった。肩を上下させなんとか息を整えようとしているが無理そうだ。
「あら、ルーイルどうしたの?そんなに息を切らして」
「気にしないで下さい。ちょっと運動しただけです」
ほんとは遅れて罰が下るのが怖くて走ったなんて言えない。この人は人が怖がっていたり、嫌がっているところを何も言わず見るのが好きなのだ。半人前のとき、よく自分が標的されたものだ。
「さすがね、ルーイル。今日も仕事が早いわねぇ」
サヒィラは、ふっと不適な笑みを浮かべてルーイルに言った。
ルーイルは、眉をよせてぶっきらぼうに答えた。
「それって嫌味ですか?私がまたいつもみたいなことやったって」
ルーイルのその台詞にサヒィラは顔から笑みを消して厳しい顔になり、
「そうよ。また回収した魂の生前のことを気にしたでしょう?」
「・・・はい」
ルーイルは唇をかんで下を向いた。
どうして自分は回収した魂の生前のことを気にするのだろう。自分以外の死神がそんなことを気にもしないせいだろうか。それとも自分の生前のことが関係するのだろうか。
下を向いたままのルーイルにサヒィラは厳しい顔のまま静かに口を開いた。
「ルーイル、自分の生前のことを調べるのは規則に反する事よ」
「!・・・わかってます。」
サヒィルの指摘にルーイルは真面目な顔で頷いた。
死神には二つ絶対に破ってはならない規則がある。
一つは、死神は自分の生前のことについてなにも調べない。これは死神になる者は回収する魂に情がわかないように生前の記憶を消される。しかしどうしても死ぬ直前の記憶は消さなかったりする。
二つ目は、「生きている人間」と恋に落ちないこと。この規則は一つ目の規則より重く見られる。過去に何かがあったと噂があるが理由は解らない。
サヒィラはルーイルの返事に深く頷いて笑みを浮かべて、
「じゃ、次の仕事が決まるまで待機ね」
と言った。
ルーイルはそのまま小さく頭を下げて部屋を出た。
この時、私はこの二つ目の規則の理由を深く考えなかった。
そのすぐ後に深く考えることになろうとは思いもしなかった。
三日後
ルーイルはサヒィラに呼ばれてサヒィラの部屋に来ていた。
「仕事来るの早くないですか?」
ルーイルがうんざりした顔でうんざりした声でサヒィラに向かって言った。
「今の此岸は戦争やら貧困やらで死ぬ確立が多くなっているのよ。だから死ぬ人が多くなったのよ」
それを聞いてルーイルは暗い顔になる。日世界で大きな戦争がなくなってからはそんなに忙しくはなかったのだが、長らく平和が続くと暇を持てあまし悪事が起こるものだ。
こんな暗いことを考えず仕事のことを考えようとルーイルは頭を切り換えようとしたがどうしたわけかこの後のサヒィラの言葉を聞いてはいけないような気がした。
「じゃ、東京へ行ってこの写真の少年の魂を回収して」
けれど耳はそれを聞き、口は・・
「・・了解しました」
受理する台詞をはいた。
こうしてルーイルはなんだが解らない不安と期待を抱えて魂を回収するため日本の首都東京へ向かった。
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