帰路

第6話 2087年12月17日 昼前 青森県青森市八戸区 八戸オールフェリー港 フェリー乗り場

日本国を結ぶオールフェリーの、10時間の東京八戸間航路も終点へと 

八戸オールフェリー港に入港する、12000トン・乗員700名の汎用フェリー船さきがけレインボーの甲板には、客員総出かという中、風光明媚な海岸に満喫してからの、既に八戸オールフェリー港に入港している幾つもの貴船にただ感嘆


べたな箸木オート印の入った作業キャップを被った階上嘉織、朗らかにも

「まあ、第七次東南アジア事変が一段落しての、この船団か、八戸も華やぐよね、」

濃紺の制服の時掛船長、階上の背後よりふわりと

「階上さん、ここだけの話、そこは海賊船の掃討の様です、東北地方で農産物補給しては、また何処へでしょうか、」

階上、不意に

「東南アジアの山間部の隠れ集落討伐しては、次は海賊掃討か、毎度だけど、この貴船で対応出来るのか、」

時掛船長、こくりと

「戦闘専用艦なんて、いつの時代なのですか、紛争終ったら転用に改修出来ませんよ、そう、追加装備の電磁パルス砲が一番無難でしょう、船体の出力の高い方が有利ですし、何より、この大きさですが、ホバークラフトは問題外ですが、かなりの速さで席巻出来ますよ、」

階上、真横を通り過ぎる、スペイン近衛騎士団の汎用貴船を見つめては、はっとし

「このマーク、挨拶しないといけないかな、」

時掛船長、切に

「スペイン近衛騎士団ですね、階上さん、無線使われますか、船橋まで御案内しますよ、」

階上、逡巡しながらも

「あっと、スペイン近衛騎士団の御旗でしょう、東南アジアのこの情況下だと、うっかり研修時代の教官達いるよな、それはちょっとかな、」

時掛船長、伺うも

「何か、苦い訓練でも有りましたか、」

階上、ついデッキの欄干に凭れては

「いや、まあ、その昔船中研修で、地中海に出張って、アフリカの海賊船去なしたら、何れも亀裂入れちゃっては沈没させてね、実戦訓練なら本気で良いですよねって釈明したら、すっごい怒られて、人命優先だってさ、それで有無言わさず丸窓あるも固っい営倉に入れられて、三日間それ、どんな戒律厳しいのスペイン近衛騎士団さ、」

時掛船長、頬笑みながら

「まあ、実に階上さんらしいですが、お相手のその方、深作さんですよね、」

階上、デッキの欄干を小突いては

「まあ、この界隈じゃ、有名か、」

時掛船長、朗らかにも

「大丈夫ですよ、深作さんの現在は病院船団の師団長ですから、スペイン近衛騎士団のサンタ・ピアドソ号には乗っていませんよ、」

階上、がばと起き

「まあ、深作ね、結局は慈の方だから、それはそうかな、いないか、ふう、さっぱりした、」

時掛船長、切に

「スペイン近衛騎士団、接岸もご縁です、階上さんがやや苦手なら、ご武運の打電の名に連ねておくだけにしておきますね、」

階上、嬉々と

「それなら、体面は保てるかな、気を使わせるね、時掛船長、」

時掛船長、停泊場を指差し

「おっと、階上さん、あれは何でしょうか、」


停泊場にはワゴン車の横に掛かった【ようこそ階上幸或旅館へ!】の横断幕、そして何故か大漁旗を必死に振る壮年の男と、その横で諸手を上げて手を振る二人の女性


階上、海風の中作業キャップを押さえながら身を乗り出し

「うわー、あれ父さんか、大歓迎かよ!」必死に手を振ると、続くフェリー客達が一斉に続く



車群が順繰りにさきがけレインボーの乗用車デッキを降り、本運転の運びとなった階上のラシーンマークツーも徐行しながら降りては、家族のいる停泊場へと横付けしては止まり

その階上幸或旅館の送迎ワゴン、よくも使い倒された往年の日産キャラバンに駆け寄る階上嘉織


嘉織、満面の笑みで

「いやー一族一同いるでしょう、忝いね、私の為に大歓迎って、」

階上旅館の赤いウインタージャンパーを着た長い黒髪の、階上家長女の美鈴、溜息混じりも

「やはり勘違いするわね、」

嘉織、肩すかしにも

「何だ、本気の接客なのかよ、」

美鈴、凛と

「まあね、純が率先してやろうってね、そりゃあ盛況だったわね、お陰でお客さん取れて取れて、大忙しだったけど、でもね、大型航路便の際は浅虫の温泉街も真似ちゃって、今は八方塞がり、まあ、そうなるわよね、」

嘉織、吐息混じりも

「まあね、浅虫の温泉街は帆立づくしもあるしね、やれ、八戸と浅虫遠いのにご苦労なこった、」

美鈴、未だ手を振る絣の女性を見ながら

「でもね、そこはとんとん、うちもちゃんとリピーターも着いてるからね、」

嘉織、ただくすりと

「そりゃそうだよ、父さんが大漁旗持って珍しく商売気出してるもの、」

美鈴、くすりと、絣の女性を指差しては

「そこも、純が発起人なのよね、アイディア出しては実行、良いんじゃないの、」

ダッフルコートに絣姿にあどけない階上家三女の純、小走りのまま嘉織の腕を組んでは、嬉々と

「ふふ、嘉織ちゃんも、大歓迎ですよ、」

嘉織、苦笑するも

「も、ってね、まあいいけどね、」

純、伺っては

「何か、不満なのかな、」

嘉織、吐息混じりに

「いやね、うちが浅虫の温泉街に持ってかれるって事は、それなりに評判あるんだろうなって、」

美鈴、とくとくと

「まあね、都市部から仕事の少ない板さんが、浅虫に流れて来ているから、固定客は徐々に付いたみたいね、小鉢がやたら多いだけなのに目移りしちゃうものかな、」

嘉織、くしゃりと

「どこも地道な努力あればこそだね、八戸が連絡フェリー港に指定もされれば商売気も出るよ、持ってかれるの悔しいけど、多様性は大いに有りだよ、」

美鈴、こくりと

「まあ、うちもそれなりに部屋は埋まってるから、赤字は無いけど、新規のお客さんは切なるものよ、真冬はもっと観光的な要素あって良いよわね、スケート場巡り一点張りではちょっと弱いかな、」

嘉織、うんざり顔で

「相変わらず、真冬でも埋まってるって、うわ、やっぱり、いるのか、あいつらさ、」

純、腕をただ腕を絡め

「嘉織ちゃん、笑顔だよ、そうしないと延々いじられるから、嫌でしょう、怒るでしょう、それ駄目だからね、」

嘉織、がっくり来ては

「まあ、この時期、クリスマスシーズンなら、更に浮かれもするか、」


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