第9話

着替え終わったミハイルを見てレノは感嘆の声を上げた。「適当に選んだ割にはしっかり似合っているじゃないか」

 薄いさくら色のワンピースに、ブルーのネックレス。顔が隠せるように買った淵の大きい白の帽子に帽子と同じ色のバッグ。

レノは小さく笑みを浮かべ独りうなずき、満足げにミハイルを見ていた。 

ミハイルは「本当に大丈夫なんだろうな。これで駄目だったら末代まで恨んでやるからな」と女の格好をしているとは思えないような低い声でレノに言う。

「安心しろ。これなら誰も男だとはばれやしないさ。さてそろそろ行こうか。おっとこの子は俺が背負う」

「どうしてだ?」

「良い男にみえるためだ」

「そういうもんなのか」

「ああ。念のためお前はよっぽどのことがない限りしゃべるなよ。それとバッグの中をよく確認しておけよ」

「分かってる」

 大きくため息をついた。

 国境まで数キロ、ミハイルとレノは昔話に花を咲かせていた。街道を歩いているときもカルーダに来る旅行者や商人、軍人などさまざまな職業の人間とすれ違う。すれ違う人間からはミハイルが指名手配になったという話はまだ聞こえてこない。女装した意味があったのかという疑問を抱えながらミハイルは歩いている。

 ほぼ十年ぶりに出会ったミハイルとレノは思い出話に花を咲かせていた。

 レノはその後師匠の元を離れファリスの軍人になったとのこと。ミハイルは今、暁の稲妻の幹部になったことを話した。

「つまり、傭兵団にいるってことだな」

「そうだ。ねむの家のみんなどうしている。あの師匠のことだ、元気じゃないことはないか」

 笑いながら言うミハイルに対しレノは深刻な顔で近づいてきた国境の町、フェイディアスの石造りの建物を見ていた。

 町の中に入り、ミハイルとレノは町の中には見向きもせずに検問所へと向かっているとレノが口を開いた。

「俺がカルーダに赴任してきた理由の一つが夕刻の聖騎士団なんだ」

 レノはミハイルの問いについてまるで聞こえなかったかのように違う話題に変えてきた。

きっと師匠のことは答えるまでもないのだろう。そう思いミハイルはレノにあえて突っ込むことはせずにロワの言ったことに答えた。

「ここはカルーダだぞ。夕刻の騎士団は関係ないじゃないか」

「魔獣の奏者は知っているだろう。夕刻の騎士団から派生した、いや下部組織だ」

「魔獣の奏者は数年前にカルーダに進出してきた、傭兵団だ。何を考えているのか分からん組織だ」

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