魔法少年になりたくない
言無人夢
1
あきら君は魔法を使えた。
彼は魔法でビー玉を誰よりも上手く当てられたし、魔法でたくさんの蝉を取った。
みんながどうやったのって尋ねると、決まって魔法だよと答えた。魔法を使ってシャワーからお湯を出した。魔法を使って親にゲームを買ってもらった。魔法を使っていい成績を取った。
あきら君が僕にだけ教えてくれた。魔法には厳しい修行がいることを。毎日いい子にしてないと魔力はつかないし、勉強をたくさんしたり、努力もしないと、呪文は使えない。
そしてこれが大事なんだけどね。と言って怖い顔で教えてくれた。どうしても魔法が効かないものがあるんだ。
自分の心だよ。
魔法が使えるあきら君は中学校に入って恋をした。学年で一番可愛い雨音さん。どうしても付き合いたいと思った。
あきら君はここでも魔法を使った。
バイトしてお金を貯めて、ブランドもののバッグを買って送った。演技で雨音さんが好きになりそうな男のふりをした。雨音さんの男友達全員を脅したり土下座したりして近付かないようにした。
そして最後に魔法だよと言って笑った。
あきら君は雨音さんと付き合うようになった。
雨音さんはあきら君の魔法を知らなかったけど、あきら君のことをとても愛していた。彼らは同じ高校に通ったし、大学も一緒だった。あきら君は雨音さんの学力に合わせて進学した。
そして雨音さんが死んだ。
交通事故だった。
お葬式で泣いていたあきら君は、次の週に魔法で交通事故を起こした運転手を殺したあと、自分が雨音さんを愛していなかったことにした。
とうとうあきら君は禁術と呼ばれる魔法で自分の心も変えてしまった。麻薬。
偉大な魔法少年となったあきら君に不可能はなくなった。なんでもできた。なんでも手に入れることができた。できないなら忘れることにした。なかったことにした。
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