第19話 カナブン付いてた

「おはよ~」

 鼻にかかった間延びした声…。

 車で蚊と格闘していた私のもとへ彼女がやってくる。

 格闘中に2か所…刺されてました。


 夏は嫌いだ…暑いし、虫がスゴイいる…嫌いだ。


「ごめんね~急に呼んじゃって~」

「べつにいいよ…」

「で…コンビニ行けばいいんだっけ」

「ううん…ケーキ予約してたの忘れてたの…」


「予約してた彼女です~」

「はい」

「あ~、洋ナシのムースっていつまでやってるんですか?ショートケーキも定番だからたべてみたいし~……なんちゃらかんちゃら」

 若干、店主、面倒くさそうな顔をしている。

「じゃあそうしてください」

「はい?」

「あ~、予約していたシブストと洋ナシムースとショートケーキください」

「はい」

「訳してくれてアリガト~」


「セブンで人肉ささみ買って~、ローソンでおにぎり買う」

(1件じゃまとまらないんだな…)

 ※注、人肉とはささみにかぶりつく彼女がゾンビのように見えたので、以来、彼女はささみを人肉と呼称している。


「納豆も買う~、最近納豆に凝っている」

(2件でいっぱい買ったな~)


 車に戻ると

「なんか酸っぱい匂いしない?」

「ん?アタシ臭い?」

「いや…御酢のような…気のせいか」


 さっそくアイスを食べ始める彼女。

「あっ!」

「なに?」

「ごはん…忘れてた~」

「ごはん?」

「持ってきてたの~家から…鞄の中でこぼしちゃった…」

「ごはんあったのに…おにぎりとラーメン買ったの」

「忘れてた~」


「まず…コレ食べて」

(コレか…酸味の正体、うんマズイ)

「次コレ」

「ゼリー?俺ゼリー嫌いだよ」

「じゃあこの白玉のとこ食べて」

(食うのね)

「ラーメンつくろ~、あっ!ゴマだれシブストに掛かっちゃった」

(ゴマだれ…ケーキに掛かったの…)


「俺…解ったよ…彼女ちゃんとメシ食って、なんでマズイと思うのか…順番が滅茶苦茶なんだよ…食べ物の」

「あ~デザートが間に入るからね~」

 そうなのである。

 白米の途中で生クリームとか入ってくるのだ…想像できるだろうか?

 今日で言えば。

 どらやき→ハイチュウ→ごはん→ゼリー→つけ麺→ケーキ。

 彼女に至っては、ケーキとアイスが追加されるのだ。

「だから、腹壊すんだよ」

「胃薬?」

「食前のほうがいいのかな?」

「うん…解らないけど」

「食前も食後も飲めばいいんじゃない」

(飲まないような食生活という発想は無いんだな)


「夕日キレイ~」

「雲に隠れてるけどね…あそこにカップルいるじゃない」

「うん」

「あそこにもいるよね」

「うん」

「でも…俺が一番変わった女性を隣に置いている気がする」


「アイスの量減ったよね~2個しか食べてない」

「2個食えば充分だよ…ケーキも食ってんだし」


「タバコ外で吸う~」

「うん」

 カナブンがうるさく、まとわりつく…夏だ。

「なに?耳元でブーンっていう!いやぁぁ!」

「カナブンだよ」

「付いてない?付いてない?」

 頭を私の服にグリグリ擦り付ける。

(よしんば付いていたら…俺の服にカナブンが…グリグリっと)


「今日はアリガトね」


 家に着くころに彼女からメールが届く…。

『肩にカナブン付いてた』

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