お湯ラーメン序(女)

桜雪

第1話 海を見た日

 早朝の海岸。

 車の助手席に彼女が座る。

 ボリボリ、飴玉をかじる彼女。

(歯は丈夫そうである)

 いつぞや、ハイチュウで詰め物取れたと騒いでいたが……。

 いまひとつ、艶っぽい話にならないのは、こういうところなのだと思う。


 コンビニで買った、お好み焼き+焼きそばセットを食べる私。

「一口食べる?」

 首を横に振る彼女。

「太る!」

(飴玉ボリボリ食って言うセリフ?)

「そう、じゃあ俺、全部食べるよ」

「うん」

「あっ!ちょっと匂いだけ嗅ぐ!」

 顔を突き出して、ソースの匂いを深く吸い込む。

 焼きそばが鼻に吸い込まれそうな勢いの深呼吸である。

「いい匂い」

「食べる?」

 首を横に振る彼女。

「太る!」

(なんか食べづらいんだよな~)

 彼女は棒付きキャンディーを舐めはじめた。

(夕食にアレだけケーキ食って、ゼリー食って、アイス食って太るって言われてもね)

 彼女は、私から見ればスレンダーである、一般的に見ても痩せている。

 まぁ、女性というものは気になるのだろう。

「最後食べて」

 棒付きキャンディーを私の口に入れる。

 ほんの一噛みである。

「最後まで食べると太る気がする」

「えっ、散々食べて最後の一口だけで食ってないことにはならないよ」

 おいおい、なんでビックリした顔で見返すんだい。

「解ってるよ!なんとなくなんだよ!最後まで食べちゃうとさぁ……」

 彼女のマイルールってやつである。

 だから、豆乳一口残すんだな……。

 だが、私が残すことを許さない彼女。

「ねぇ、私があげたジュースはちゃんと全部飲んでる?」

「あぁ飲んでるよ」

「うん♪良かった」

 残すことを許さない彼女なのである。

(お好み焼き我慢できるなら、ケーキを我慢したほうが良いのでは…)

 思うのだが、口にはしないことにした。


 彼女と食事をするようになって半年、

 ケーキを見ると無口になる自分に気づく今日この頃である。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る