恵子ちゃん タイタス→ロイス 侵食率125%→166%

「どうやら主戦力は君のようだね」


解放者リベレイション』の視線はあたしの方を見る。

 これはセッちんの攻撃力を軽視したわけではない。単にセッちんは広範囲に攻めることができ、あたしは単体に強い一撃を加えることができるだけだ。そして恵子ちゃんや秋絵ちゃんを巻き込むわけにはいかない以上、セッちんの特性は抑えられる。

 そういう意味では『解放者』の読みは正しい。大地から生まれた巨大なカエルの霊体が、あたしを押しつぶそうと跳躍する。


「流石に超広範囲のシーン攻撃は連発できないようだな」

「ええ。しかも先ほどのような認識のずれはありません。今度こそ亜紀子さんを守ってカバーリング見せますわ!」


 クララさんが叫ぶと同時にあたしの盾となる。青い修道服が翻り、その下に着こんである赤い血の鎧が垣間見えた。赤いボンテージだった。


「はあああああああん! これですわ、これですわ!」

「クララさーん! 戻ってきて! 主に精神的な意味で!」


 カエルに潰されてどこか恍惚としているクララさん。体をぴくぴく震わせながら、親指を一本たてた。まだ無事なんだろうけど、被虐嗜好者マゾヒストとして色々旅立っているような。


「まあクララさんだし!」

「とはいえあれをもう一度喰らうとクララ君でも拙いだろうな。ここで勝負を決めるぞ!」

「ん……」


 セッちんの人形が舞う。『解放者』に傷を負わせるのを横目で見ながら、あたしは恵子ちゃんに向き直る。


「いろいろ辛いのも、どうしていいかわからないのも分かるよ」

「……何よ、急に」

「男にひどい目に遭わされて、その時にオーヴァードに目覚めたり。大変だったのは知ってるわ」

「…………」

「しかもあんな銀髪ショタに逆らえなくなって。あんな少年に恵子ちゃんはあーんなことやこーんなことをしたりされたり!」

「いや待て。その手つきは待て! 口も!」

「でもそんな鎖に囚われた恵子ちゃんは、あたしが助けるわ! そして今度はあたしが……げへげへへ……!」

「辛い! 今ものすごく辛い! まともに救けてくれる人はいないの!?」


 むう。あたしと恵子ちゃんの日常ロイスを再確認しているのに。まるであたしが変態みたいな扱いだ。

 勿論全部本気なんだけどネ! 今夜は寝かさないわよー。


「……正直、無垢な少女をかどわかす悪魔に手を貸している感はあるが……」

「誰が悪魔よ!」

「どう考えてもあんたでしょうが、エロ村!」

「かわいそうな恵子ちゃん! あのショタに無理やり言わされてるのね!」

「いや、僕そんなことしてないから」


 あたしとセッちんを強化しようとするP266が、何かためらうように呟く。それに追従するように恵子ちゃんがあたしを指す。

 おのれ、言語の自由すら奪うとは。『解放者』許すまじ!


「でも大丈夫。あたしに身を任せればいいのよ! というわけで支援はよ! はよ!」

「まあ……その意思の強さ自分勝手は感心するところだな」


 なにやら失礼なことを言うP266。だが稲妻による支援はしてくれたようで、あたしの体に力がみなぎってくる。

 だがその前に恵子ちゃんが動く。燃焼する化学物質を生み出し、あたしの方に狙いをつける。


「ストップ。それ確か薄く広がる範囲攻撃んだよね。あたし一人を狙うとか無意味じゃない? UGNズあっちは固まってるわよ。格好の的よ」

「……さりげなく、私たちを……売った……?」

「うっさい! 誰が許せないかってアンタが許せないわ!」

「何故!? こんなに恵子ちゃんを助けてエロいことしようと頑張っているのに!」

「後半部分が要らないの!」

「ここまでブレないのは大したものですわ」


 あたしの必至の訴えアドアイスは、なぜか不評だった。クララさんも『あ、今回は庇いませんから。それ、一度喰らいましたし』と言ってくる。ああん、いじわるー。わかったわよ、どうにかするわよ!

 あたしの現身アヴァターが形を変える。背は161センチ。3サイズは上から75・58・77。Aカップ。体重は身長に対して平均的。髪型はショートボブ。うん、こんな感じかな。

 影の現身は目の前の恵子ちゃんと同じポーズをとり、同じように化学物質を形成する。影によるコピー。目の前の超能力と全く同じ技を放ち、咆哮と同時に相殺する盾魔獣の本能+浄玻璃の鏡。それにより恵子ちゃんの攻撃をしのぐ。


「防がれた……!?」

「あっぶなー……瞬間的なコピーだから上手くいくかは五分五分なのよね。でもうまくいったかなー。恵子ちゃんのコピーも含めて」


 恵子ちゃんの姿になった現身は、そのままあたしに追従するように傍に立つ。うんうん。あたしの慧眼あって、即興とはいえ見た目のコピーは完璧だ。


「じゃあ、あたしの番! 一発ヤッちゃうよー」


 影が腕にまとわりつき、巨大な獣の爪となる。レネゲイドや生命を吸いとるあたしの能力。

 ……ただ奪うしかない腕。こんな手では女の子を抱くことはできない。胸を揉むことも、太ももをなぞることも、それ以上のこともできない。

 だからあたしは日常いつもに帰る。バカやって、気持ちよくて、それだけじゃなくて、だからこそ価値のある場所へ。


「せーのっ」


 振りかぶった影の獣爪。それが恵子ちゃんに迫る。怯える顔に躊躇しそうになるが、構わず振りかぶった。

 手のひらから伝わる確かな感触。肉を裂き、血を、レネゲイドを吸う感覚。

 あたしの体内に流れ込む恵子ちゃん。その味に酔いしれそうになる。レネゲイド侵食が進んだことによる理性の崩壊。

 どさりと倒れこむ恵子ちゃん。もっと吸いたい。もっと血を、レネゲイドを。その衝動に身を委ねて、影獣の爪を――


「服が裂かれて倒れこむ姿ってエロいよね! 破れた所から手をいれたくならない?」

「ならない。あと手をいれるな」

「言ったときには、すでに行動を完了している。素晴らしい行動力ですわ」

「……その行動が……大問題……」


 恵子ちゃんの胸を触りながら、あたしは問いかける。心臓の音は正常だし、傷が塞がっていくのも見える。

 危ないところだった。なんとか理性は持っているようだ。だけどこれでなんとかなった――


「その二人を倒して安心しているみたいだけど、この僕を忘れてもらっては困るよ。この地域を司る鎮守の力を見せてあげよう」


 ……あ。そういえばいたよね、『解放者』。

























「……人形舞踏フライヤーダンス……」

「女の子じゃないので加減なしパーンチ!」

「バカなぁぁぁぁぁぁ!?」


 銀髪ショタっ子を、二秒ではっ倒すあたしたちでした。

 

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