ウィルス侵食率 43%→50%

大村神社にいたあの子。何故?

「ここがセッちんが調べた神社ね」


 あたしは神社の石段の下で、再確認するように言う。セッちんと『情報交換』したときに見た映像通りの光景だ。間違えようがない。この上に、レネゲイト的な何かがいるのだろう。

 秋絵ちゃんとその何かがどういう関係にあるかは、わからない。それを今から調べに行くのだ。とはいえ、穏便な解決になるとは思えない。なので、UGNの面々と一緒に来ることになった。


「うむ、確かに空間に何かを感じる。何らかのエグゾーストロイスだろう。」

「という事は、相手がジャームなのは確定なのですね?」

「……敵意、感じる……」


 P266、クララさん、セッちんが交互に口を開き、緊張を高める。

 ジャーム。それを聞いて、あたしの心の天秤は一気にうつに傾く。

 仮に秋絵ちゃんが待ち構えていたら、あたしは手も足も出ない。いや、下手をするとUGNに爪を振るいかねない。それぐらい、自分を保てるかに不安がある。

 正直、P266はいい。あとクララさんはすごく喜びそうだ。セッちんは……殺さないまでも気を失わせればいいかなー。そして動けない二人をそのまま人気のない神社に連れ込んで……落ち着け、あたし。動揺を顔に出すな。


「動揺を顔に出すな。手をワキワキさせるな。涎も拭け」

「何というか……考えていることがすぐにわかるのが亜紀子さんですわね」

「……背筋が、寒い……」


 おおっと、いけないいけない。UGNの人達に指摘され、口元をぬぐうあたし。

 とにかく神社だ。ここに強力なジャームがいるのは間違いなく、今回の事件にそれが何か関与している可能性は高い、というのがP266の出した結論だ。それを調べることで、この事件の解決の糸口になるかもしれない。

 だが、あたしの懸念は街の平和よりも秋絵ちゃんの今後である。ぶっちゃけると、UGNの理念よりも今日誰とイチャイチャしようかと言う方が大事なのだ、あたしは。

 勿論、UGNもあたしがそういう人間だとわかっている。なので、強制的にUGNに入ってくれという形ではなく、あくまで『協力者』という形であたしを使っているのだ。

 正直、クララさんやセッちんが一緒じゃなきゃ、あたしはふて寝している。これが熱血漢な少年が先導を取っていたり、渋めの支部長が眼鏡をあげて指示を出すなどしていれば、100%秋絵ちゃんを連れて逃亡している。

 そういう意味では、このグループはいい人選だ。あたしのやる気を支えてくれている。……ケータイが支部長っていうのもどーよ、とは思うけど。

 神社の石段を昇る。体力的にも役割的にも一番最初に上り切ったあたしが見たのは――


「げ。エロ村!」


 どこかで聞いたことがあるお掃除ガール、恵子ちゃんだった。神社の境内に落ちている葉っぱやゴミを箒で一カ所に集めていた。


「なんで――?」


 余りと言えば余りの事に、あたしは思わず息をのんでしまった。わかっている。わかっているが、あたしは拳を握っていた。何故、こんな所で、どうして、恵子ちゃんが――

 動揺しているが、あたしの心はどこか冷静だった。疑問に思いもするが、同時にその事実を受け入れていた。このまま疑問をうやむやにはできない。あたしは真正面から恵子ちゃんに向き直り、指をさして問いかけた。


「何で――神社の境内を掃除しているのに巫女服じゃないの!?」

「……は?」

「神社、乙女、掃除、そう来れば巫女でしょうが! 清楚さを示す白! それと相対する目に移る赤! それは心の清らかさを示すように上半身は白く、激しさを示すように下半身は赤! それを着ないとはなにごとか!」

「ごめん。それ聞いたら余計着たくなくなった。っていうか、巫女服ってそういうのじゃない気がするけど」

「げへへへ。しっているか、けいこ。袴ってスリットに手をいれて直接あそこをさわれるんだぜ」

「あそこってどこよ! いや言うな! 黙れエロ村!」

「清楚にして捧げる準備万端な服、それが巫女服なのよ。なのに恵子ちゃんはなぜジャージか!」

「汚れてもいいからに決まってるじゃない。あと通気性いいし」

「成程、乱れて汗をかいても濡れても大丈夫、と。そう考えるとジャージそれもありね」

「濡れ……!」


 真っ赤になる恵子ちゃん。うんうん、初々しいなぁ。ともあれ疑問は解消できた。

 つまり、恵子ちゃんは本当に『掃除』しているのだ。この神社とは関係なく。……一般人なら近づくことすらできないジャームの領域の中で。


「ねえ恵子ちゃん。あたし、この神社を調べたいんだけど」

「駄目よ。汚いのは見過ごせないの」

「ねえ恵子ちゃん。あたし、恵子ちゃんと戦いたくないんだけど」

「そう。でも帰るつもりはないんでしょう?」

「ねえ恵子ちゃん。……好きよ」

「そう。私は嫌い。汚いモノを押し付けてくる人とか、大嫌い」


 恵子ちゃんから放たれる圧力。これはオーヴァードが持つ特有の殺気だ。ワーディングと共に乗せたそれは、あたしの体内に居るレネゲイトを共振させる。


「知り合いか。だが、向こうはやる気のようだな」

 

 P266が簡潔に、だけど的確に状況を推測してくれる。

 恵子ちゃんの放つ殺気に体内のレネゲイトが反応しながらも、あたし自身の戦意は確実に薄れていく。

 そんな事情などお構いなしに、恵子ちゃんは動き出す。

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