クララさん P:お姉さん N:…ちょっと怖い
「そこまでにしなさい、亜紀子さん」
あたしを止めた人の名前は、クララさん。紺色のシスター服を着た金髪のお姉さんだ。外人で凄いんだよね、胸の所がアレで、弾力もソレで。ふざけて抱きついたら予想外の弾力で癒された。
「はーい」
あたしはP266を折ろうとしていた力を弱め、充電器に戻す。
あれだけ力を込めたのだが、P266はいつの間にか元に戻っていた。これもまたレネゲイトウィルスの力だ。倒れるほどの傷を受けた時、レネゲイトウィルスがその傷を再生してくれるのだ。限度はあるが、その為オーヴァードは簡単には倒れない。
「亜紀子さん、いくらオーヴァードが
祈るように手を組みながら、あたしを見るクララさん。
あ、やばい。スイッチ入れちゃった。逃げようとするあたしを視線の圧力で抑え込み、そのままあたしの手を掴む。
「
先ほどの
「あ、はい。えーと……」
「オーヴァードの中でも随一の力を持つシンドロームの一撃と、力の根源であるレネゲイトを吸われるシンドロームによる二重の苦痛。それは想像するだけで――すごく気持ちよさそうですわ!」
目を潤ませて叫ぶクララさん。あたしの手を擦りながら口から涎を垂らし、太ももを擦り合わせるように足をもぞもぞさせている。息も荒く、声も高くなって来る。
「肉体的な激しい苦痛と、吸われるような脱力感!
それは抗っても逃れられない。拘束具!
そしてじわじわ力を奪われる絶望的状況!
もがいても抜けられない沼のごとく!
ただ自らの破滅を苦痛の中で感じ続けなければならない地獄の宴!
ああ! なんと素晴らしい!」
素晴らしい、とか言っちゃったよ。このシスター。
概ね理解して頂けたと思うけど、クララさんは
オーヴァードの攻撃を受けて喜びを感じるクララさんは、普通の人に殴られたのではそれほど影響はない。ここ最近では並のオーヴァードの攻撃を受けても物足りないらしく、ここにいるUGN職員では対応出来ないそうだ。
なのであたしのような並以上の力をもつオーヴァードには、すごく好意的に接してくれる。いやだなー、と思いつつもここで何もしないと延々とクララさんはしゃべり続ける。
助けを求めるようにUGN職員やP266の方を見るけど、こぞって首を横に振る。P266に至っては、
『(´゚皿゚)乂<ムリ』
と液晶に顔文字を出して拒否していた。
面倒だなぁ、と思いながらあたしは意識を集中する。あたしの体から黒い何かが剥離し、巨大な腕のようなものになる。それは影。あたしは自分の影を使って相手を殴る事が出来るのだ。剛腕ともいえる影の一撃をクララさんに振り下ろす。
「ああ、これです! この一撃……はあああああん!」
桃色な声をあげて。クララさんは倒れ伏す。形のいい胸がぷるん、と揺れた。うわ、改めて思うけど凄いはあれ。触りたい。
「――と、思っている時にはすでに触っているあたしなのでした。んー……手のひらに収まらないとか、すごい」
「目のやり場に困るので、ほどほどにしてくれたまえ」
P266に言われて、諦めたようにあたしはクララさんから離れる。さらば
双丘。
「いけないいけない、つい理性が。動けない女を襲うとかポリシーに反するわ」
「……さっき、手も足も出ない私を投げつけてひねった人間が言うセリフではないと思うが」
「男は不意打ちで倒してもいいけど、女はダメ」
断言するあたしに納得したのだろう。P266はこれ以上の追及をしなかった。きっと納得してくれたのだろう。大切なことなので、二度言うよ。
そんなことをしている間に、クララさんが立ちあがる。先ほどの痴態などどこ吹く風とばかりにシスター服についた埃を払いながらあたしに笑顔を向けた。
これはあれだ。世に言う賢者モードだ。
「ようこそ、亜紀子さん。お茶でもどうぞ」
「あ、はい。いただきます」
あたしは何事もなかったかのように接するクララさんに、同じく何事もなかったかのように接する。通常運行ということもあるが、ここで話を戻したらまた先の繰り返しになる。
まあ、あのおっぱい触れるのはありがたいんだけど。
「お呼ばれになった理由はご存じで?」
「ううん。全く」
「まあ、いけませんわ、支部長。事件の事を説明してないだなんて」
クララさんはP266を嗜めるように言う。これだけ見てると、優しい世話焼きのお姉さんのように見える。
頬に手を当てて、物憂げにため息をつくクララさん。アンニュイな表情を浮かべ、言葉を続ける。
「仕方ありません。メンバーが集合してから説明しましょう」
「メンバーってことは、他に誰かいるの?」
「ええ、私と支部長と。あとはセツナさんです」
「あー、セッちんか。ってことは近くにいるの?」
「そう思いますが、セツナさんは……」
はふぅ、とため息をつくクララさん。あたしは鼻を動かし、獣の力を使って周囲の匂いをかぎ取る。ほのかに香る石鹸と少女の匂い。それをたどって部屋の一角に歩いていく。見た目には何もないように見える部屋の角。
あたしはそこに向かって、手を伸ばした。レネゲイトを吸いとる手が、レネゲイトで作られた光学迷彩を砕く。
「あ……」
「やーん、セッちんみーつけたー」
今まで何もいないように見えた空間に、人形を抱いて怯えるようにしゃがみ込む少女が現れた。
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