恵子ちゃん P:ツンデレv N:肩の力ぬいたら?

 ●月◇日、今日は一日中晴れ渡り、洗濯物を干すのには絶好の日よりでしょう。お出かけになる方は日射病対策を忘れないようにしてください。

 天気予報が告げる通り、空には雲一つない青空。照る太陽は容赦なく熱気を大地に施してきている。昼になれば放射熱で暑くなることは、素人でもわかる話だ。


「まー、こんな天気でもオーヴァードにかかれば大雨の異常気象に変化できるんだから、おっそろしいよねー」


 人を超えた者オーヴァードの力はハンパない。個体差はあるが、強い人は天変地異を起こすこともできるという。一説では神様とかそういうのもオーヴァードなのだとか。説明された時は「はー」とか「ほー」とか間の抜けた返事しかできなかったのですが。


「しかし神様は大きかった。はちきれんばかりでした」


 あたしは過去にゆー……なんとかかんとかと言う組織にお願いされて、トヨタマヒメという神様の伝承と戦ったことがある。なんでも人間以外にもこのレネゲイトウィルスは感染するらしく、それは形のない神話にまで感染するとか。実際の強さは神話自体よりもウィルスの発症度合いに依存するらしい。なので何とかなりました。安産祈願の龍神。良い揉み心地でした。

 そんなことを回顧しながら、あたしは歩く。散歩ルートは気任せ風任せ。信号が赤なら止まらず曲がり、途中で会った友人(当然女)と歓談して歩き続ける。そういえば朝ごはんまだだったなぁ、と気づいてコンビニにに行くために公園を通り抜けようとした時に、


「あらま、恵子ちゃん」

「げ。牧村」


 トングとビニール袋を手に公園のゴミを拾っている娘に出会う。喜びのあまりか眉にしわを寄せて、手を縦に振っていた。


「なになに、お呼び?」

「こっち来るなってジェスチャーよ、この色情魔!」

「え? もしかしてあたしに見えない誰かがいるの? 透明人間?」

「あんたの事よ、ま・き・む・ら・あ・き・こ!」

「わーい、恵子ちゃんに名前で読んでもらえたわー」


 手を組み体をくねらせて喜びを表現するあたし。その動きに諦めたように恵子ちゃんは肩を落とした。


「どうでもいいけど色情魔は聞き捨てならないわね。あたしは合意以外ではシないわよ」

「……この前、いきなり抱きつかれて押し倒されたんだけど」

「あれはスキンシップあいさつよ」


 断言するあたしに納得したのか、恵子ちゃんは背を向けて手を振った。うん、誤解が解けて良き哉良き哉。

 恵子ちゃんは公園におちているゴミを拾っていた。ペットボトルや御菓子の箱。タバコの吸いカスや捨てられたガム。おそらく夜に公園で遊んでた男共が捨てた者だろう。そういうマナーを守らないのは男に決めた。今決めた。

 で、そう言ったゴミを拾い続ける恵子ちゃん。彼女は学校でも似たようなことをやっていた。落ちていたゴミを拾ってはわざわざくずかごに入れ、掃除係が逃げたのに気づけば、自分で掃除して。最初は真面目ねー、って言ったら、


「違うわよ! 汚いのに我慢できないだけ!」

「なんでこんな汚いのに我慢できるのかしら。私にはわからない!」


 という返事が返ってきた。どうやら清潔なのは性格的のようだ。綺麗でなければ我慢できない。整理整頓されていないと気持ち悪い。そんな性格。

 ――この後、仕方ないなぁと手伝ってあげてぼそりと『……ありがと』と言われた後にスキンシップ押し倒してしまったのである。その後ものすごく警戒されてしまったわけだが、まあそれはささやかな行き違いだ。

 なのであたしが手伝うよー、と言っても彼女は素直に首を縦に振らず、勝手に手伝って渋々納得するのが恵子ちゃんとあたしのいつもの流れだ。今日もその流れで口を開こうとした時に、少し前に流行ったTV番組のテーマ曲が鳴る。音はあたしのブラウスのポケットから。正確にはそこにあるスマートフォンからだ。


「あ。あたしだわ」

「なんでホラー番組のOP曲を着信音にしてるの……?」


 それは出たくない相手からだからです。とは言えず、あたしは電話をとりだす。ディスプレイには見たくもない三文字のアルファベットが並んでいた。


 『ユニバーサルガーディアンネットワーク


 面倒なので最初はワン切りした。そのまま恵子ちゃんに話しかけようとしたら、また電話がかかってきた。これぐらいは想定内と言わんばかりに。

 ……うん、知ってた。暗澹とした気分にさせる呼び出し音に、あたしは諦める。


「はい牧村ですけ――」

『やあやあ、私だよ。すまないけど君に頼みたいことg――』


 出てきた男の声に苛立ちを感じ、即座に電話を切る。そのまま電源をオフにした。

 しかし無視するわけにもいかない。あたしは恵子ちゃんと一緒に公園できゃっきゃうふふするのを諦める。


「あー、じゃあたし行くね。お掃除頑張ってね」

「…………む。まあ、仕方ないわね」

「あ、もしかして寂しい? あたしがいなくて――きゃん!」

「消えろ、このエロ村!」


 恵子ちゃんのキックに追いやられるように、あたしは公園を走っていく。キックと言っても間合からして当てるつもりはないのは明らかだ。

 

「はあ……。UGNってことは、オーヴァード絡みなんだろうなぁ。……めんどくさい」

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