「こんなんでました!」って感じの12の笑変小説集
銀鮭
第1話 ペリカン少女
旅行者から通報を受けた政府の関係者は、現場に到着して唖然とした。
発見された時の彼女は、身体に何も着けていなかったのだ。
年齢は、推定で17、8歳だろうと思われた。
数羽のペリカンに混じって、湖の浅瀬に立っていたのである。
その姿は人間としては異様で、彼女はもう既にペリカンだった。
ただ、彼女は立っていたといっても両膝を折っていた。
つまり、しゃがんでいるのだが、左右の膝頭をピッタリとくっつけて、
その上に、大きく湾曲した上半身をのせていた。
首は肩から脱落したように前下方に伸ばし、顎は常に引き気味であった。
ときおり、首とともに顎を持ち上げるのだが、その時は尻のあたりで後ろ手に重ね
ていた両手を左右に拡げ、まるで鳥の羽のように二、三度大きく羽ばたかせた。
もちろん、空を飛ぶことはできなかったが、浅瀬にいる魚を捕まえるのは上手だっ
た。
身体を水面に覆いかぶせるのは、光の反射を防ぐためで、
彼女は魚を手づかみにするのではなく、仲間と同じように口でくわえて捕らえるの
だった。
おそらく、それら一連の行動は彼女が育てられた環境から身につけたものであり、
その環境の一つであり、最大のものがペリカンであるということは誰の目にも明ら
かだった。
保護された彼女は、人権保護団体や福祉財団や宗教家たちによって、人間社会への
復帰が試みられた。
もともと、体長が1.5メートル前後あるペリカンは人間を怖がらない性格があり、
彼女にも、人間に対しての恐怖感は見受けられなかった。
彼女の健康状態に異常はなかった。
レントゲンやCTなどの結果もすこぶるよかった。
基本的に、彼女は人間の17、8歳の女性の身体を持っていた。
頚椎や背骨の異常な湾曲や上肢や上腕、前腕部の筋肉の発達が健全ではなかった
が、それをもって不健康であり、人間社会に適応できないという理由には該当しな
かった。
筋肉については、これからのリハビリで充分本来の姿に回復できると診断された。
あれから5年経過して、もう誰も「ペリカン少女」の話題などしなくなった頃、
ある新聞が、彼女のことを小さく報道していた。
当初、生魚しか食べなかったペリカン少女は、今や調理した肉や野菜なども食べる
ようになった。
カイロプラティックの専門家の努力により、彼女は直立して歩行することができる
ようになり、両手の握力も同世代の女性の70パーセント程度まで回復した。
湾曲した背骨や首の骨もある程度戻り、少女らしい服装に身を包めば、
最早、彼女がかつてはペリカンに育てられた「ペリカン少女」であることを証明す
るものは何もなかった。
ただ、ひとつ改善されないことを除いては───。
つまり、
彼女は、いかなる時も自由気ままに脱糞し、そのあと拭くことをしないのだ――。
(了)
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