隣の狂った宗教 ~18歳から狙われる~
宮祭 礼
第1話 巨大宗教の学生組織
大学の授業なんてどうでも良くなった。サークルだろうが、バイトだろうが、家族だろうが友達だろうが、すべてがこの活動のためにあった。
僕の人生はもうブッ壊れていた。
ブッ壊されたのか。それともブッ壊したのか。もう良くわかんないけど。
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「おはよう、誠一。さぁいこうか。」
高校がたまたま一緒だった、同級の勝利。カツトシなんて変な名前だが、こいつの親が熱心な信奉者で、自分の子どもの名前を宗教団体の会長につけさせたらしい。信じられないバカ親だ。
「カツ、どこいくんだよ。」
「とりあえず、まぁ、面白い先輩がいるから会ってみてよ。」
都内の外れにあるボロい木造アパートにつれていかれた。玄関には薄汚れたシューズがいくつも蹴散らされていて悪臭を放っていた。
週末の早朝から、20人もの学生がボロ家に集合している。これからフットサルに行くという雰囲気でもなく、初対面で悪いが、貧乏臭い連中だ。
このゴミ屋敷のような部屋の家主がその先輩という人だった。たった一人だけ、濃紺のスーツにネクタイを締めているのが浮きまくっているが、クシャクシャなシャツのエリとソデは茶色とオレンジ色に激しく汚れていた。
「部長、今日はようやく誠一君が参加してくれることになりました!」
カツトシはこの先輩を部長と呼んだ。何かのサークル活動なのだろうか。そして、何か事前にこの部長と呼ばれる人とカツトシとの間で僕を連れてくる話でもあったのだろうか。気味が悪い。
「やったな、勝利。名前の通り、今日は勝ちだな!」
「はい!部長、真剣に誠一君のこと祈って、勝てました!」
勝ちってなんだよ。そう思うと突然、部屋の真ん中の食器棚に向かって、急に全員で正座をして、お経を唱え始めた。どうやら、食器棚の中には小さな掛け軸が掛かっていて、それを拝んでいるようだ。窓をあけっぱなしで大声で。
おい、しゃれにならんぜこれ。ヤバい宗教だこれ。
簡単なお経が終わると、誇らしげにカツトシは訳の分からないことを熱血プロスポーツ選手のように、
「誠一君、今日は自分の殻を破る戦いをするから、一緒に行こう。きっと行って良かったと思うから。」と僕にぶつけた。
部長はもっと良く分からない。これから何が起きるのかも全く分からない。軽く誘拐されているような、不信感に優しく包まれた。
「誠一君、今日は軽い感じで来てくれればいいよ。楽しい感じで。短時間で終わるから、終わったらみんなで一緒に激ウマのラーメンでも行こうよ。」
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秋葉原の駅前に車で連れて行かれた。
駅の片隅に部長が今朝からの20名を集めると、唐突に言い訳のような説明をはじめた。
「これは選挙活動ではありません。特定の候補者名を出している訳ではないから。というより、大切なのは、今日ここにいるひとりひとりの人生をひらくために精一杯戦うということなんです。これは全国各地で、この連休中に行われているんです。ここで、ひとりでも多くの人にアンケートを答えてもらう。それが勝ちということなんです。もし、『これは違法な選挙活動ではないですか?』と聞かれたら、『単なる政治活動です。』と答えればいいです。そしてすぐ撤収しましょう。」
そう話終わると、副部長と呼ばれる学生が、某政党が作成したアンケート用紙と画版を学生の人数分配った。
そのアンケート用紙のタイトルは
『18歳選挙権スタート・若いあなたがこれからの政治に期待すること 改民党』
僕は何が何だかさっぱりわからなかった。
だから、何もしないで帰ろうとした。
しかし、それは通用しなかった。
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