第4話 1−4: 第-1460日

 連絡してあった時間になり、私は計算機の前で通話を起動した。1, 2秒の間に荒い画像の表示が埋められ、従兄弟の顔になった。

「やぁ、アキ兄。式には呼んでよ」

「まだ言うか、ヒロ」

 まったく、6年間からかわれっぱなしだ。

 ディスプレイの向こうでは従兄弟が笑っていた。

「ごめん。それで? まぁ、マサ兄から聞いてることで想像できるけど。臨床?」

「あぁ。動物から」

「動物ならそっちでもできるんじゃないの?」

「面倒くさい。いや、動物から一貫してやってもらった方がいいかと思ってね」

 そう答え、私はデータの転送を始めた。

「それで、どの臓器?」

 転送されているデータの量を見ているのだろう、ヒロの目が大きくなった。

「全部」

「それでマサ兄は『あの馬鹿、できるからってやればいいってもんじゃない』って言ってたのか」

 ヒロはそう言って笑った。

「俺も言われたよ」

 私も笑いながら答えた。

「だけど、全部ってのはどうやって?」

「結構早い時期に方向を変えたんだ。フルスクラッチで書くのは止めた。基本的には対象のゲノムと環境をデコードして、こっちの媒体でのエンコードを出力することにした。ただのトランスレータだな」

「幹細胞を使う方が簡単だったんじゃないの?」

「かもな。でも、それは嫌いだ」

 ディスプレイの向こうでは、送った資料にヒロが目を通し始めているようだった。

「全部ってことは、脳すべての構築も可能?」

「外部との接続のための組織が一つ。こっちは仕方ないから結構書いた。もう一つは損傷部位の代替が目的だから、組織を構成するために外からの誘導が必要だぞ」

「それはわざと? 何にせよ、マサ兄やハルの領分が絡みそうだけど」

 さて、マサ兄が言ったとおりだ。できるからってやればいいってものじゃない。

「そっちにだけ任せるというのも……」

 そこまでを言った。

「どうかだよね。これ、そっちのDNA様物質で0から個体も作れるよね。幹細胞やらクローンやらの方が手っ取り早いだろうけど。とりあえず、ともかく問題なのは脳の培養への対策だね。こっちからタカにも話してみるよ。あっちから何か出てくるかもしれない」

 ヒロはそこで笑った。

「早く、式に呼んでよ」

「爺さんになったころにな」

 私は軽く手を振って答えた。

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