第3話 1−3: 第-3570日
神経接続マップはもらえた。
まだ後でのことだが、これを稼働させるのは大変そうだ。やはり必要なところだけを稼働させる方向が妥当かもしれない。偏微分やらなにやらについては、GPUやらなにやらのグリッドで結構いけるだろうが、全体を稼働させるとなると難しい。いや、それはリアルタイム性を求めているからかもしれない。
リアルタイム性を求めないという方向もある。しかし、会話ができたら面白いとも思う。
生で偏微分やらなにやらを計算する方向が正統だとは思うが、手を抜く方向もあるかもしれない。どうせ偏微分のあたりで、すでに原子や分子を一個ずつ計算するわけではないのだ。もっと手を抜けるだろう。
古くはパーセプトロンやニューラルネットワークは、手を抜き過ぎだが。スパインや分泌を無視しすぎていた。いや、そもそも考慮していなかった。
とは言え、カラム構造あたりは、細胞単位で稼働させる必要もないだろう。カラム構造として機能すればいいのではないかと思う。同じようなことは脳のあちこちに言える。いや、それだとニューラルネットワークと同じくらいいろいろと捨てることになるだろうか。計算と、試してみる必要があるかもしれない。
それにしても、タカが言うには、マップは特定の個人のものではないらしい。ヒトゲノム・プロジェクトでもそうだったのだから、そんなものかもしれない。だが、だとすると、このマップは誰の脳であって、あるいは全体を稼働させたら誰になるのだろう。
それとも、私個人のマップを作ってもらうことを考えた方がいいのだろうか。それが稼働したら、どうなるだろう。面白そうだ。
だが、これは案外面倒な話かもしれない。再従兄弟のマサ兄にわかるかどうかは知らないが、法律やら人権云々について一応聞いておいた方がいいのかもしれない。何かの結論が出るまでは、全体を稼働させるのは待つ方がいいかもしれない。どっちにしろ、部分を稼働させるだけでも手間がかかるが。
* * * *
私は左耳に着けているヘッドセットに触った。
「コール、マサ兄」
発信音の後、通話が繋がった。
「マサ兄、アキだけど」
「結婚決まった?」
「その話はいいから」
「ユウちゃんが結婚して、残ってるのアキだけだろ」
結婚式でもずいぶんからかわれたが。まだネタにするのかとも思う。
「今度そっちに行くときに話すよ」
「本当だな?」
「あぁ、まぁ」
本気とは受け取っていないのだろう。笑い声が聞こえた。
そういう挨拶の後、代替器官の問題、脳神経細胞の接続マップの稼働の問題、そして脳と外部との接続のための補助脳の問題についてマサ兄に疑問と懸念を伝え、しばらく話し合った。マサ兄は、従兄弟のハルにも話を通してみようと言っていた。
どうやら、考えていたより面倒なことになるのかもしれない。
マサ兄から指摘されたが、脳と外部の接続ができれば、脳が損傷しても、その部分の機能を外で計算させることもありえるだろう。では、その計算を誰かが止めることは認められるだろうか。それなら、代替組織を埋め込んでしまう方がいいようにも思う。
代替組織の信頼性の問題もあるだろう。開腹と開頭のどちらが負担になるのだろう。いや、どちらにせよ負担になる。そうそう開けない方がいい。それだけの代替組織を作らないといけないわけだ。
でも面白そうだからなぁ。
こっちは、若い人に手伝ってもらうにしても、様子を見たり相談には乗れるだろう。
伯父が、いずれ膨大な計算能力が使えるようになるし、使わざるを得なくなると言っていた。それを聞いて、ついでに計算機についても勉強しておいてよかったと思う。ナノマシンの設計においても、やはり使っていた。
「ついで」というなら、私にとっては何が本命で、何が「ついで」なのだろう。自分でもそのあたりがわからない。全部が本命だし、全部がついでだ。一旦捨てたが、学部を出てから、修士、博士でついでに回収した分野も多い。面白いから。
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